第二章
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「以前のニューヨーク=フィルの時も」
「マエストロは後任にドクトルを任じられています」
「その時はまだです」
「お二人の関係もよかったですね」
「そこでゲッペルスが出て来た」
その彼がというのだ。
「何かと宣伝をした」
「そしてそれがはじまりで」
「今や、ですね」
「お二人はああして」
「激しい言い合いまでされましたね」
「しかしです」
ここで友人の一人がだ、怪訝な顔になってだ。
そのうえでだ、こう言ったのだった。
「マエストロが大のナチス、ひいてはファシスト嫌いなのは承知していますが」
「それでだね」
「しかし。それはドクトルだけでなく」
「リヒャルト=シュトラウス氏もだね」
「そうなのですが」
こちらの作曲家もだ、ナチスはドイツを代表する音楽家として持ち上げているのだ。フルトヴェングラーと共に。
しかしだ、それでもだというのだ。
「あの方については。マエストロは」
「何も言わないね、アルトゥーロも」
「はい、何故でしょうか」
「実は」
ここでだ、一旦だ。
ワルターは言葉を止めてだ、こう友人達に話した。
「アルトゥーロの女性のことは知っているな」
「お好きですね、どうにも」
「愛妻家ではありますが」
「そのことはですね」
「どうしようもないところがありますね」
「そう、それでね」
ワルターはトスカニーニもよく知っている、彼もまた親しい友人であるが故に。
その美女に目がないこともだ、そのことも知っているからこそ言うのだ。
「どうやら彼が目をつけている女性が」
「ドクトルにですか」
「関心を持っておられるのですか」
「どうやらね」
こう今前にいる友人達に話すのだった。
「アルトゥーロは彼女に手紙も送っているらしいから」
「そこまで、ですか」
「マエストロはその方にご執心ですか」
「マエストロもお好きですね」
「相変わらず」
「アルトゥーロはね」
偉大な音楽家であると共に無類の女好きでもあるというのだ。
「だからウィルヘルムに嫉妬しているみたいだね」
「あの、では」
「それでは」
「マエストロがあそこまでドクトルにお怒りなのは」
「嫉妬ですか」
「女性関係故ですか」
「そうみたいだね、もっともヴィルヘルムがね」
ワルターはまたフルトヴェングラーの側に立って話した、ワルターにしてみれば二人共親しい友人なので苦しいところだ。二人共嫌いではないし敬愛もしているが故に。
「彼女と交際しているかというと」
「そのことはですか」
「わからないですか」
「そのことについては」
「どうにも」
「そうなのだよ、つまりアルトゥーロの嫉妬によるところが大きいんだよ」
そのトスカニーニの、というのだ。
「そこにお互いの支持者も集まって」
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