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ケツアルカトル
第五章

[8]前話
「無意識ではです」
「気付いているか」
「御覧下さい」
 従者はここで前を指し示した、神殿の中は石造りでありまさに古代のマヤの神殿それもピラミッドを思わせる。
 石の像は翼を持つ蛇だ、その蛇の前にだ。
 様々な供物が置かれている、特に玉蜀黍が。
「あの供物達を」
「玉蜀黍もあるな」
「それに鳥の羽根も」
「私がそれだけを捧げてくれていいと言ったな」
「はい」
 まさにそれだとだ、従者は彼に話した。
「そうでしたね」
「私は生贄を好まない」 
 確かな声でだ、彼は言った。
「その様なものは人にも求めなかった」
「人はそのことを思い出してです」
「供物にだな」
「あの様にしてです」
「玉蜀黍に羽根をだな」
「送ってくれたのです」
「それもかなりの多さだな」
 見れば供物はうず高く積まれている、玉蜀黍達は山の様になっておりそしてだ、黄金色の輝きさえ見せていた。
 その輝きも見つつだ、彼はこんなこともお言った。
「これこそがだな」
「貴方が戻って来られ、そしてもう離れることはないとわかっているからこそ」
「ここまでか」
「捧げてくれているのです」
「そうなのだな」
「この一の葦の年に。実はです」 
 従者は彼にこんなことも言った。
「これまでの一の葦の年はです」
「ここまではか」
「捧げられていませんでした」
「そうだったのだな」
「そうです、しかし」
「この一の葦の年はです」
 それこそというのである。
「多くなかったのです」
「供物もだな」
「それが変わったのです」
「そうなのか」
「そうです、しかし」
「この一の葦の年は」 
 ここまで捧げられたというのだ、そしてだった。
 従者はあらためてだ、こう言ったのだった。
「ここまでです」
「捧げてくれたのか」
「そうです、ですから」
「私が戻って来てくれたことをわかっていてか」
「喜んでいるのだ」
「そうなのです」
「ではな」
 こう話してだ、そしてだった。
 彼は従者にだ、笑顔になって述べた。
「私は彼等と共に再びだ」
「生きられますね」
「もう離れることはしない」
 こうしてだった、彼は微笑み戻ってきたことを心から喜んだ。そうして人々に信仰され彼等と共に生きるのだった。


ケツアルカトル   完


                            2015・5・25
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