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第一章
遠ざかった春
一九六八年、チェコスロバキアの首都プラハ。
今この街はだ。燃えていた。
「自由だ!」
「この国に自由を!」
「かつての自由を!」
誰もが叫びだ。そして立ち上がっていた。
これまでのソ連の支配から抜け出すことを宣言してだ。高らかに叫んでいた。
その彼等はだ。はっきりと未来を見ていた。
「自由な国を作って」
「そして幸せを手に入れるんだ」
「絶対に」
チェコ人もスロバキア人も立ち上がっていた。誰もが武器を持ちそしてビールを飲んで意気をあげていた。彼等は本気でソ連と戦い自由を勝ち取るつもりだった。
その中にだ。彼等もいた。
赤い髪の青年と金髪の青年の二人だ。彼等は酒場でビールを飲みながら互いに話す。
木造の古風なその酒場でソーセージを食べ呑むのは黒ビールだ。両方の味を心ゆくまで味わいながらだ。まず赤髪の青年が言った。
「できるか?」
「革命か?」
「ああ、それだよ」
こう金髪の青年に言うのである。
「それ、できるかな」
「できるさ。いや」
「いや?」
「やるんだよ」
金髪の青年は不敵に笑って言ってみせた。そしてであった。
「なあ、ヤナーチェク」
「ああ」
「御前今のチェコスコバキアは嫌いだろ」
「だからこうしてここにいるんだろ?」
赤髪の青年ヤナーチェクは少しむっとした顔で彼に言葉を返した。
「だからだよ」
「今の社会主義もな」
「ソ連の押し付けだよ」
ヤナーチェクはむっとした顔でまた言った。
「あの連中のな」
「そうだよな。しかしな」
「ああ、ドボルスキー」
ヤナーチェクは金髪の青年の名前をここで呼んだ。
「何だ、それで」
「俺達は俺達でやれるんだ」
これがドボルスキーの言葉だった。
「俺達でな。俺達の社会主義を作れるんだ」
「人間の顔をした社会主義だな」
「ああ、それだ」
これが今のチェコスロバキアの合言葉であった。
「それができるんだよ」
「そうだな、俺達はできるな」
「少なくとも今よりはずっとましになるさ」
ドボルスキーはこうも言った。
「ソ連の子分の今よりはな」
「同盟国ってことになってるぜ」
ヤナーチェクはジョッキを片手にシニカルに笑ってみせて言った。
「ワルシャワ条約機構の中のな」
「名前だけはな」
「名前だけか」
「ああ、それだけはな」
本当にそれだけだと。ドボルスキーは自分の金髪をジョッキを持っていない左手で後ろに払ってから言った。額が少し広かった。
「けれど実際にはな」
「そうだろ?子分だろ」
「属国だよ」
それだと言うのだった。
「それ以外の何でもないさ」
「全くだよ。けれどこれからは違うよな」
「ああ、
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