巻ノ三 由利鎌之助その十
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「器が小さいと光は弱い」
「では殿の目はどうじゃ」
「これ程澄んで強く大きな光を発される方は見たことがない」
幸村のその目を見ての言葉だ。
「御主達も澄んでいて強いがな」
「殿はそれ以上じゃな」
「遥かにな、この方こそは天下一の武士となられる方」
まさにというのだ。
「この方に是非お仕えしたい」
「そう言うか、では我等はこれより同僚じゃな」
由利も男に笑って言った。
「宜しく頼むぞ」
「こちらこそな」
「してそなたの名は」
幸村は自身に仕えることを誓った男にその名を尋ねた、これまでその資質は見たが名は聞いていなかったからだ。
「何というのか」
「海野。海野六郎といいます」
「海野六郎というのか」
「はい、宜しくお願いします」
幸村の前に膝をついての言葉だった。
「これより拙者の命を預けます」
「頼むぞ」
「ではこれより上田に」
「いや、まだ旅を続ける」
幸村はこう海野に答えた。
「そして天下の豪傑を集めていく」
「真田家の為にですか」
「今天下は先がわからぬ様になっておるな」
「本能寺で織田信長殿が倒れられ」
「そうじゃ、羽柴秀吉殿が頭一つ出ておられるが」
「それでもですな」
「まだどうなるかわからぬ」
確かなことは言えないというのだ、幸村は秀吉が天下を握ると見ているが確信して言うにはまだ憚れたのだ。
「そして信濃もな」
「武田様の後は織田家でしたが」
「その織田家は去った、徳川や北条、上杉が来る」
「その三家が」
「特に徳川が来るであろう」
幸村は海野にその読みを話した。
「家康公は三河の麒麟とまで呼ばれる方、武勇と智勇を兼ね備えておられる」
「確かに。その家臣の方々も揃っておられます」
「ましてや甲斐、それに信濃は最早主がおらぬ状況。ではな」
「そこに攻め入ってもよい」
「まさに切り取り放題、これで徳川家が信濃に雪崩れ込まぬ理由はない」
「そして上田にも」
「徳川家には十六神将という勇将達が集い尚且伊賀者もいる」
忍もだ、家康は抱えているというのだ。
「陣容はかなりのものだ、その徳川殿が攻めてくれば戦わねばならぬ」
「だからこそですか」
「拙者はまだ人を集めたい」
天下の豪傑達をというのだ。
「真田家を守る為にもな」
「だからですな」
「これより美濃に入る」
続いてはこの国だった。
「そこでも人を探そう」
「さすれば殿」
海野はここまで聞いてだ、幸村にこう言った。
「美濃に一人面白い者がおります」
「それは誰じゃ」
「根津甚八という者でして」
海野は幸村にこの者の名前を出した。
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