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すれ違い
3部分:第三章
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話には同意して頷く。
「西洋の酒もあれはあれで美味いが」
「酔うときつい」
 彼が言うのはこのことだった。
「日本酒よりもな」
「しかし君は昨日随分と飲んだな」
 達哉はあらためて彼に言った。
「一升瓶一本は空けているな」
「もっと飲んだだろうな」
 だが幸次郎は自分でこう言うのだった。
「はっきりとはわからないが」
「そんなにか」
「だからだ。今はかなり辛い」
 見れば顔が青い。
「歩いていれば酒も抜けるだろうが」
「それには少し先だな」
「風呂があればいいのだがな」
「ははは、それは贅沢だろう」
 達哉は幸次郎の今の言葉は笑い飛ばした。
「幾ら何でもな」
「やはりそうか」
「歩いていればそのうち酒も抜ける」
 彼が言うのはやはりこれだった。
「それだけでいいからな」
「そういうものか。どうも今は歩くのも辛いな」
「まあ少しずつ楽になるものさ。ところでだ」
 ここで達哉は話を変えてきた。
「どうも最近芥川の作品が変わってきたかな」
「昨夜の話の続きか?」
「そうだ。今までは古典の作品が多かったが」
 芥川の初期の作品の特徴である。鼻にしろ羅生門にしろそれは同じだ。今昔物語やそういったものから題材を取りそれを当時の、さらに言うなら芥川の味を入れる。そこに深い理知があり極めて特徴的な作品になっているのが当時の芥川の作品なのである。
「最近変わってきたな」
「そんなにか」
「うむ。日常の作品も出て来た」
 こう幸次郎に言うのだった。
「作風を変えてきているな」
「それが上手くいけばいいがな」
 幸次郎はそれを聞いて首を少し捻った。
「白樺派を意識しているのなら過剰に意識せずにな」
「白樺派か」
「特に志賀直哉だ」
 彼はこの作家の名前を出した。

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