Episode38:終幕
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?、すみません!」
そうだ。何を迷っている。
俺の日常が、エリナと釣り合うとでも思ったのか。
病室から飛び出す。唇を噛みちぎり、半覚醒だった意識を無理矢理叩き起こした。
約束の時刻まではまだあるが、準備に時間がかかる。急ごう。
慌ただしく駆け去っていった少年の背中を見送ってから、鈴音は力無く息を吐き出した。
「ああ、やはり。間違いではなかったのですね……」
今までは決定的な証拠がないから観察に留めていたが、今ので分かってしまった。
彼は以前『空虚』と呼ばれていた存在。
『親愛』と『誠実』、今の名は『セラ』と『櫂』か。その二人から生まれた、組織の最高傑作。
他者にも己にも興味を示さない虚ろな存在。人としての尊厳を極限までに削ぎ落とされた彼は、最早ただの殺戮マシーンだった。
約十年前。セラと櫂が研究所を破壊して、子供二人を連れて逃げた時以来消息が掴めなかったが。
ドアを開けた時に一瞬だけ見た『九十九 隼人』の目は、あの日のように何の感情も浮かべていなかった。
「私は…どうすれば……」
夜の帳が下り、電気の付いていない病室は闇に包まれる。
その中で、一人の少女の啜り泣く声が響いていた。
☆★☆★
「おやおや、もうこんな時間か」
人が行き交う中華街。
日が傾き、夜の帳が下りても尚、この街は明かりに包まれている。
賑やかで、明るい表の姿。故にこそ、この街に潜む影は暗く、濃いものとなる。
瓶底眼鏡などという時代錯誤のアクセサリーを身につけた男は、懐中時計の時刻を確認して苦笑いを漏らした。
「相変わらず時間ピッタリに来るんだねぇ……?????周くん」
「おや、貴方は相変わらずせっかちな人ですね。遅刻した訳ではないのですから、大目に見て頂きたいものです」
雑多な街の中では、ボサボサの髪に草臥れたシャツの姿の男と、スーツを見惚れる程に着こなした見目麗しい青年が笑みを浮かべあっていても、怪訝には思われない。
「それじゃあ、行こうか」
「ええ。案内しますよ」
人はまだ知らない。
彼らの思惑が、自らにどのような被害を齎すことになるのかを。
☆★☆★
燕尾服が風に吹かれてたなびく。
時刻は午前0時。
場所は木場に教えてもらった横浜のとあるホテルの屋上。吹き荒ぶ強風は、これより先の死闘を暗示しているかのようだ。
少年は、狐の仮面の奥の瞳を紅く妖しく光らせた。
「待たせた、な」
現れたのは色素の薄れた少年。酷く濁った黒の瞳が、狐面の少年を睨む。
「エリナはどこだ」
されど臆することはない。全身に殺意を漲らせ、問いを投げる。
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