Episode38:終幕
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「????くぁ」
とある山中に存在する日の光届かぬ建物。部屋の至る所に立てられた蝋燭の火でしか照らされない部屋で、黒い少年は退屈そうに欠伸をした。
「…黒。あまり腑抜けた顔をしているな」
「ンだよ堅物。文句あるぅ?」
椅子に座り、テーブルに足を乗せた少年を嗜めるのは四月に雫とほのかを連れ去った首謀者である緑川佐奈であった。
幾ら言っても聞く様子のない少年に、頭が痛いとばかりに彼女は溜息をつく。
「お父様の前でそういう態度をしていると、後で聖一が怒るぞ」
「あぁ〜……確かに聖一兄サンは怒らすと怖えや。けどまあ、今はいないし、バレないからどーでもいい」
とっておきの脅しも最早効果がないのを見て、佐奈は諦めたのか、読みかけていた分厚い本を手に取って再び読み始めた。
「ああぁ〜……暇だなぁ。さっさと聖一兄サンが九十九を連れてきてくんねぇかな」
浮かべた笑みは最上の歪。血走った目で不気味に笑う少年を、佐奈は無理矢理見ないように本に集中することにした。
☆★☆★
「ガッ…ぁッ…!?」
身を焼く雷撃に苦悶の声を漏らす。蛇のように地を這った雷は足から脳天を余す所なく焼き尽くしていく。
その苦痛から逃れようと反射的に全てを消し去ろうとして、踏みとどまる。
今は高校の親善試合の最中である。『消失』はまず隠し通さねばならない。
「こ…のッ…!」
消し去ることは不可能。紫道を殴り飛ばすこともできなければ、対抗する手段はただ一つ。
「…な、に……!?」
隼人の全身から発生した雷の蛇が、スパークを食い破る。
世界最高峰の干渉力を以って発動した雷帝が紫道の雷を上書きしたのだ。
「う、おおお!」
雄叫び、一閃。
一息に距離を詰めた隼人の拳が紫道の腹ーー否、その寸前の空気を殴りつける。
拳と腹に圧迫された空気が、隼人の魔法によって指向性を与えられ、暴発。凄まじい衝撃が体を軋ませる。
それは正に風の鉄槌。巻き起こった突風は、紫道のみならず隼人自身をも吹き飛ばす威力だ。
常人ならば一撃で意識を刈り取られてもおかしくはない打撃に、しかし紫道は余裕の笑みを浮かべた。
「もう、一度言う、ぞ」
ブレた。
目の前に立つ男の姿が、まるで輪郭を滲ませたようにハッキリしなくなる。それが魔法によるものだと理解するよりも早く、本能が命ずるままに隼人は遥か上空へ身を躍らせていた。
その直後、地を這う雷を視界に収めつつ、自分の直感は正しかったと理解する。
「もう、終わりか?」
また。
上空へ飛び上がった隼人の、更に高く。音も無く、紫道が拳を構えていた。
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