2部分:第二章
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れでいて清楚さも持っている。相反する二つのものを持った不思議な美女であった。
彼女がすれ違ってその姿が遠くにいってから。幸次郎は話題を元に戻すのだった。
「横顔も後姿も」
「美しいか」
「あそこまでの美人は見たことがない」
ここでも彼はこう言うのだった。
「今までな」
「惚れたとでもいうのか?」
「冗談はよし給え」
今の言葉は少し真剣に咎めた。
「そうした言葉は好きではない」
「それはわかっているがな」
「では止めてくれ。いいな」
幸次郎の言葉はさらに強いものになった。
「それにしてもだ」
だがそれでも美女の顔が印象に残った。その印象深い顔を思い出しつつ達哉と共に己の大学へ向かう。大学での講義を終え夜になると。学友達と酒を酌み交わすのであった。
「ところでだ諸君」
「どうした?」
学友のうちの一人千坂明人が不意にそこに集っている面々に声をかけてきた。右手に杯、左手に干物を持ちそのうえで話している。
「この前話していた小説のことだが」
「芥川だったか?」
「そうだ。芥川龍之介のな」
「あの作家の作品は作品によって文章を変えているな」
恰幅がよく大柄な明人とは正反対に小柄で細い神奈昭光が芥川について述べた。
「時には候文が出て驚いたものだが」
「あの作家の教養は並ではないらしいな」
明人は昭光の話を聞いて静かに述べた。
「本朝に関するものはまず古典についてかなり詳しい」
「うむ、確かにな」
「支那や西洋のことにもかなりのものだしな」
「そういえば海軍で英語を教えていたそうだな」
芥川の最初の仕事はそれであったのだ。すぐにその異才ぶりをさらに発揮し作家に専念することになった。彼は元々英語畑の人間なのだ。
「それを考えれば当然か」
「ではあの作風はそちらの素養もあってのことだな」
「そうなるな」
明人はあらためて学友達の言葉に頷く。
「これからが楽しみの作家だな」
「確かにな」
「然るにだ」
ここで学生でありながら軍人の如き口髭を生やした者が言った。津田友喜である。
「林君」
「むっ!?」
「今日の君は少しおかしいな」
こう彼に対して言うのだった。
「どうしたのだ?いつもなら文学の話なら乗ってくるというのに」
「そういえばそうだな」
「しかもだ」
明人と昭光もここで幸次郎を見て言った。彼等は全部で五人いた。幸次郎も含めて。
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