7部分:第七章
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な顔をしており紅の鎧と戦抱を身にまとっている。その彼が呂布に声をかけてきた。
「これが最後だな」
「わしを生かすつもりはないのだな」
「残念だがな」
曹操はこう返してきた。傲然とした目で呂布を見上げている。呂布の身体は後ろ手で縛られているがそれでも大きさは変わらない。だからこそ彼を見上げているのであった。
「御前は配下にはできん。裏切られては困る」
「裏切りか」
「左様」
曹操は答える。
「わしは自分の下に虎を置くつもりはない。だからじゃ」
「虎か」
「豹でもよいぞ」
彼は言ってきた。
「どちらにしろ何時心変わりするかわからぬ獣。そんなものを買うつもりはない」
「心変わりか」
呂布はその言葉に眉をピクリと動かしてきた。その濃く猛々しい眉を。
「確かにわしは多くの者を裏切ってきた」
「自分でわかっておるな」
「二人の義父もな。この手で殺めた」
丁原に董卓のことである。このことが彼の悪名を決定的なものにしたのだ。その為に彼は信用されてこなかったのである。
「そして」
曹操の隣にいる大きな耳の男に顔を向けてきた。劉備玄徳である。一応は皇族ということであり呂布は彼のところに身を寄せていたこともあるし裏切ったこともある。浅からぬ因縁のある相手であった。
「貴殿にもな」
劉備は何も語らない。ただ呂布を見ているだけであった。
「しかしだ」
それでも彼は言う。
「ただ一つだけ裏切らなかったものがある」
「ほう」
曹操はその言葉を聞いて声をあげてきた。
「面白い。それは何だ」
「花だ」
それが彼の言葉だった。
「わしが裏切らなかったただ一つのものはな」
「花を裏切らなかったというのか」
「そうじゃ」
また曹操に答える。
「それだけはな」
「では聞こう」
曹操はそれを聞いて呂布に問うてきた。興味深げに彼を見ていた。
「その花は何の花じゃ」
「牡丹」
彼は一言で答えた。
「牡丹の花じゃ。それだけはな」
「裏切らなかったと申すか」
「そうじゃ。だからわしは」
上を見上げた。空を見ている。その空は灰色の厚い雲に覆われている。だが彼はその雲を見てはいなかった。
「牡丹を持って死にたい」
「そうか、牡丹をか」
「それでよいか」
「春の花なのでないが。しかしじゃ」
曹操は言う。
「赤い布で作らせる。それでよいな」
「赤い牡丹をか。ならばそれでよい」
曹操の言葉を受けることにした。こくりと頷く。
「それでな」
「わかった。ではな」
「うむ」
呂布はその作られた赤い牡丹を服に入れられて処刑された。その顔は不思議と穏やかで満ち足りたものだったという。それから牡丹は中国では貂蝉を現わす花になった。そこにはこうした悲しい話があったのであった。
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