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牡丹
3部分:第三章
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「はい、娘です」
「何っ、娘だと。確か御主には」
「ええ。義理でございます」
 王充に娘はいないのは知っていた。だからこそ問うたのであるがそれから答えが出た。
「義理でるか」
「御気に召されたでしょうか」
「召されたどころではない」
 まだ貂蝉を見ていた。そのギラギラとした目が彼女に向けられている。
 王充はその目に心を暗くさせる。しかし彼女の決意は変わらない。じっとその流麗な目に計りを含ませて彼を見ていた。こうなっては彼も観念するしかなかった。だからこそ言った。
「太師。宜しければですな」
「うむ」
「御側に置かれては如何でしょう」
「よいのか」
 好色、しかも並外れてのものであると言われている董卓はその言葉に息を呑む。それから問うが王充の返事は変わりはしなかった。
「勿論です。後は太師の御心次第です」
「うむ、わかった」
 彼はその言葉に頷いた。義理とはいえ父親が言うのではもう問題はない。彼は決断を下した。
「それでは。譲り受けさせてもらう」
「はい」
 こうして董卓は貂蝉を貰い受けてすぐに自身の宮殿に連れ帰った。それから暫く家から出ず彼が新しい美女を手に入れたことが忽ちのうちに噂になった。そのことは呂布の耳にも入った。
「のう李儒殿」
 彼はこの時李儒と共にいた。董卓の娘婿であり参謀でもある。彼もまた董卓にとってなくてはならない人物である。薄い髭を生やした痩せた小男であった。全体として狡賢そうな印象を受ける。彼等は今杯を手に呂布の屋敷で話をしていた。
 廊下に席を設けそこから庭を見ている。呂布はそもそも西方の生まれであり都の贅沢といったものへの知識は乏しい。従ってその庭も質素なものであり悪く言えば殺風景であった。呂布はその庭を横にして李儒と話をしていたのである。
「近頃太師は参内しておられぬな」
「新しい美女を宮殿に入れられたらしい」
 李儒はそう呂布に語った。
「そうなのか」
「うむ。何でもな」
 彼は貂蝉のことを知らなかった。当然その策のことも。だからここでつい言ってしまったのである。
「王充殿の義理の娘らしいぞ」
「何っ」
 呂布はそれを聞き思わず声をあげた。
「李儒殿、それはまことか」
「うむ、わしも話に聞いただけだがな」
 驚く呂布に対して何かよくわからないまま答えた。
「そうらしいぞ」
「馬鹿な、そんな筈がない」
 呂布は必死になってそれを否定する。
「王充殿は貂蝉をわしにくれると言ったのじゃ。それがどうして」
「将軍」
 李儒は彼があまりにも戸惑っているので怪訝になり問うた。
「どうしたのだ、急に」
「済まぬ、急用ができた」
 しかし彼はそれに応えずに立ち上がった。そして述べる。
「これで失礼させてもらう。それでは」
「待たれよ、どうされたのだ
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