2部分:第二章
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白の華やかな服に身を包んだ一人の女が姿を現わした。それは貂蝉であった。
「何と」
「貂蝉」
王充は息を呑む呂布をちらりと見た後で彼女に声をかけてきた。見れば彼女は二人の前に膝をついて畏まっている。
「こちらはあの呂布将軍じゃ」
「その方がですか」
「そうじゃ。御主の舞、見せてやるのじゃ」
「わかりました」
貂蝉はその言葉に頷く。彼女が作ったという曲に合わせて優雅に舞をはじめた。その舞は艶やかでもあり呂布の心を虜にするには充分であった。
王充はそんな彼を見て俯いていた。そこには躊躇いの色があった。しかし貂蝉は優雅に笑っている。それはまるで一つの障害を越えたかのようであった。
舞が終わりまた畏まる。王充はそこで呂布に声をかける。見れば彼は貂蝉を見てまだ呆然としていた。
「将軍」
「はい」
王充に言われてようやく我に返ったといった感じであった。
「如何でしょうか。娘の舞は」
「いや、これは」
それに応えて述べる。
「これ程の舞は見たことがござらぬ。いや、何と言っていいか」
「将軍、そこまで」
貂蝉は呂布の言葉を聞いて頬を赤らめさせる。それが呂布の心をさらに捉えるのであった。
「王充殿」
呂布は貂蝉を見たまま王充に声をかけてきた。
「御息女の御名前は何というのかな」
「貂蝉と申します」
「貂蝉か。よい御名前ですな」
「有り難うございます」
「若し宜しければ」
呂布はまた述べる。
「またお伺いしても宜しいでしょうか。そしてまた」
「いやいや、それには及びませぬ」
王充はにこやかに笑って呂布に言ってきた。そのにこやかな顔は仮面でありその裏にある真の顔は。貂蝉を見て泣いていた。
「娘は十六になりまして」
「うむ」
「そろそろ相手を探していたのですが。それが天下にその名を知られた呂布将軍であれば」
「よいというのか?」
「はい」
真意を押し殺して答える。
「如何でしょうか」
「いや、それは」
呂布は思いがけないその言葉に目をしばたかせて王充を見る。これは予想していなかったのだ。
「まことでござるか」
「嘘で申しましょうか。御覧下さい」
貂蝉を手で指し示してみせる。
「娘もまた」
見れば呂布を見て顔を赤らめさせたままであった。彼はそれを見て王充に顔を戻してきた。
「それでは」
「はい。吉日を選んで」
こうして貂蝉は呂布の妻となることが決まった。呂布にとってはまさに奇貨であった。しかし貂蝉にとってはそうではなかった。彼はそれに気付いてはいなかった。
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