閑話
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こつこつと静かに階段を下りる硬質な音がこだまする。
場所は五階層から六階層に繋がる階段。
目下にあるのは闇へと沈む段。
その段をデイドラはゆっくりとした足取りで幽鬼のように揺らめきながら下りている。
ファミリアのホームを飛び出したばかりのときに心にあった葛藤もダンジョンの静けさに呑み込まれて、消えていた。
デイドラがダンジョンに踏み込んで既に五時間が過ぎていた。
にも拘わらず、デイドラからは疲労の色が窺えず、それどころか、傷も肌を伝う汗すら一滴も見当たらなかった。
そんな彼の姿は異様と形容しても過言ではなく、不気味な気配を発していた。
やがて、デイドラの見据える階段の先がうっすら明るくなり平らに広がる床が暗闇に浮かび上がった。
残り数段を下りて、両足を床につけると、おもむろに視線を這わせた。
そこは正方形のルームで階段の入口がある壁に対面する壁に奥へと繋がる通路が口を開けている。
その闇に塗り潰されている通路にデイドラは這わせていた視線を止めた。
すると、少しの間を置いて、冒険者の硬質な足音とは異なるひたひたという音が渇いた空気を震わせた。
まるで闇がデイドラの刺客として生み出されたように、それは通路から現れた。
――果たして、それはウォーシャドウだった。
ウォーシャドウを知覚した瞬間、記憶が刺激され、脳裏を数枚の光景がかすめた。
手から弾き出される短刀。
それを嘲笑うかのように黒爪を振り下ろすウォーシャドウ。
間に合いそうにない防御。
眼前に迫る黒手。
――そして、頭上をかすめるようにしてウォーシャドウの凹凸のない頭部に突き立つナイフ。その瞬間に動きを止めるウォーシャドウ。
フラッシュバックした光景は自分の目で見ていたはずのものだったが、デイドラはその光景にまるで見覚えがなかった。
だが、今思えば、あのウォーシャドウの急停止は余りにも不自然であるものの、この光景はその急停止を説明するには十分だ。
さらにウォーシャドウに突き立ったナイフには見覚えがあった。
それは死闘の後、魔石とドロップアイテムの回収をしていたときに足元で見付けたリズのナイフだ。
この二つのことはあることを示していた。
(俺は助けられた?)
デイドラは対峙しているウォーシャドウの存在を忘れて唖然となる。
(俺は逆に救われたのか)
デイドラはその真実に、復讐だけのために潜っていたダンジョンで少女を助けた揚句、命を救われたという事実に、戸惑いと怒りが混じり合ったえも言われぬ感情を抱いた。
(俺は復讐のために生かされている。リズにではない!)
このことは復讐心に再び染まったデイドラを業火の如く燃え上がらせるには十分だった。
(力がいる)
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