第六章
[8]前話
「ですから脱いでいますが」
「外ではですね」
「あの服のままです」
「そうなんですね」
「はい、今もそうです」
こうミヒャエルに話す。
「私達は着ています」
「あの服が一番暖かいんですか」
「冷気も風も遮断して。しかも水にも強いですから」
「アザラシやセイウチの皮だからですか」
「裏の生地の毛もいいです」
「天然の毛もですね」
「あれで顔に氷の結晶が付きません」
そうなることを防いでいるというのだ、毛が。
「ですから」
「この服はですね」
「私達にとっては最高の防寒服です」
「今もなんですね」
「そうなんです」
「成程、そうですか」
「それで今も着ています」
村長はミヒャエルに全て話した、そして。
あらためてだ、彼とアスカイネンに笑ってだった。
出しているコーヒーを指し示してだ、こう言った。
「では」
「はい、このコーヒーをですね」
「熱いうちにどうぞ」
「外は寒いですからね」
「また外に出られますから」
それ故にというのだ。
「これで暖まって下さい」
「では」
こうしてだった、ミヒャエルはアスカイネンと共にコーヒーと菓子も楽しんだ。そうしてであった。二人は仕事を終えて村を後にした。
そしてオフィスに戻ってからだ、ミヒャエルはアスカイネンに言った。
「あの服が一番なんだな」
「あそこでもな、けれどな」
「けれど?」
「獣皮パーカーを今も着ているのはあの人達だけじゃないからな」
「他のイヌイットの人達もな」
「ここの近くの村のイヌイットの人達もそうだよ」
彼等もというのだ。
「獣皮パーカーを着てるさ、カリブーの皮でな」
「アザラシやセイウチじゃなくてか」
「フェアバンクスは内陸にあるだろ」
「だからか」
「断熱効果がある方がいいからな」
「だからカリブーの服か」
「ああ、そうなんだよ」
カリブーの皮で作った獣皮パーカーだというのだ。
「そうなってるんだよ」
「同じ獣皮パーカーでも地域によって違うんだな」
「いぬいっとの人達同士でもな」
「そこも面白いな」
「そうだろ、イヌイットの人達同士でもな」
「そのことも面白いな」
こう話すのだった、ミヒャエルも。
「じゃあ今度その村に行ってみるか」
「仕事以外でか」
「そうしようか、ワイフを連れてな」
「ついでにパーカー買って着てみるか?」
「悪くないな、それも」
まんざらでないといった顔で返したミヒャエルだった、そして彼は実際に後日ロザンナと共にその村に行って獣皮パーカーを見て買った。そうして二人共外に出る時はこの獣皮パーカーの暖かさを楽しんだのだった。
獣皮パーカー 完
2015・6・25
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