暁 〜小説投稿サイト〜
タイヤル族の服
第一章
[1/2]

[1] 最後 [2]次話
                  タイヤル族の服
 昔、とはいっても日本が台湾を統治していた時代のことだ。柳原十作大尉は台北のある中学校に教師として派遣されていた。
 そこでは日本人も台湾人も同じ立場で同じ授業を受けていた。中には所謂高砂族もいたが柳原も彼等と平等に接していた。
 それどころかだ、お互いの対立があるとだ。
「帝国臣民は同じである!」
「皆陛下の臣であるぞ!」
「お互いを馬鹿にすることはするな!」
「友を大事にせよ!」
 帝国陸軍の軍人らしく怒った、その為学生達からは厳しいが公平な人物として知られていた。
 それでだ、よく台北でも現地の人即ち大陸から渡って来た人達の子孫である漢族や本来の住人である高砂族の人達が経営している店にもよく出入りした。その中で。
 彼は地元の本屋の親父日本生まれでこちらに来た彼にだ、高砂族のことを話していると。
 ここでだ、こう言われた。
「実は高砂族といっても色々で」
「一つの民族ではないのか」
「はい、先日こちらに帝国大学の教授さんが来られまして」
 台北帝国大学である、九帝大の一つだ。
「そんなことをお話されていました」
「そうだったのか」
「はい、実は幾つかの民族に別れていまして」
「高砂族といっても一つではないのだな」
「左様です」
「皆共に陛下の臣民だが」
 即ち日本人だというのだ。
「そうなっているのだな」
「そうです、例えば」
「例えば、か」
「この台北の南に鳥来という場所がありますね」
「あそこか」
 台湾の地図は頭の中に入っている、日本の領土のことは細かく頭の中に入れているのは陸軍軍人として当然のことだ。
「あそこにいる者達もか」
「高砂族の人達なんですが」
「細かく言うとだな」
「タイヤル族といいます」
「タイヤル族か」
「はい、そうです」
「そうなのだな、そういえばだ」
 ここでだ。柳原はこうも言った。店のカウンターで親父に自分が買う本を何冊も渡して勘定を見てもらいながら。
「鳥来は自然豊かな場所だったな」
「それで評判ですね」
「そして温泉もある」
 このこともだ、柳原は言った。
「いい場所らしいな」
「凄くいい場所らしいですね」
「それならばだ」
 ここでだ、柳原は腕を組んで考えてこうも言った。
「生徒達を連れて行ってやるか」
「大尉が教えられている」
「うむ、そうした場所を見るのも学問のうちだ」
 だからだというのだ。
「ここはだ」
「鳥来に学生の皆さんとですか」
「行くか」
「よいお考えですね」
「歩いてどの位か」
「はい、馬なら三時間程ですが」
「馬ならか」
「わりかしゆっくりと。ですが」
「この台北から南となると山が多い」
 このこともだ、柳原は頭の中に入れている。

[1] 最後 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ