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戦国異伝
第二百十四話 家康の馳走その七

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「そして上様はです」
「征夷大将軍じゃな」
 幕府の主であるその役職をとだ、信長は応えた。
「そうじゃな」
「はい、その様に仰っていますが」
「そしてじゃな」
「太政大臣もです」
 今度は朝廷の役職のことだった。
「そちらもです」
「帝は言って来られたか」
「はい、どうされますか」
「有り難いお言葉じゃな」
 信長は林の言葉に確かな声で応えた。
「それは」
「どちらにされますか」
「どちらかではないな」
「上様がお望みなら」
「両方もか」
「かつての足利義満公の様に」
 室町幕府の三代将軍だ、室町幕府の最も強い時に将軍にあり天下に比類なき権勢を誇ったことでも知られている。
「その様にです」
「いや、義満公は将軍の座を退いてからじゃった」
「太政大臣になられましたが」
「わしはじゃな」
「同時にです」
 幕府を開き将軍の座にありつつ太政大臣になるというんどあ。
「そうなりますが」
「左様か」
「ではどうされますか、関白の話も出ていますが」 
 この官位のことも話に出た。
「三つのどれか、若しくは」
「将軍と太政大臣じゃな」
「若しくは将軍と関白です」
 太政大臣と関白は共に朝廷の役職なので共になることは出来ない、だからこれはどちらかとなるのだ。しかしだった。
 将軍でありながら太政大臣か関白になってもいい、林は信長に朝廷のこの言葉を伝えたのである。
「上様さえ望まれれば」
「そうか、しかし」
「お受けになられませんか」
「天下はまだ定まっておらぬ」
 これが信長の今の言葉だった。
「だからな」
「まだ、ですか」
「今はお気持ちだけ受け取っておく」 
 こう林に言うのだった。
「有り難くな」
「では」
「天下が定まってからじゃ」
「九州、奥羽の残りを収め」
「それからじゃ」
「幕府を開かれますか」
「そしてじゃ」
 太政大臣か関白にというのだ。
「そうさせてもらいたいとな」
「朝廷にはですな」
「伝えてもらいたいが」
「畏まりました」
 確かな声でだ、林は主に応えた。
「それではその様に」
「頼むぞ。そしてな」
「そして、ですか」
「そのうえでお受けしたい」
「順序ですか」
「まだ天下は定まっておらぬ」
 信長は確かな声で言うのだった、今は。
「それでお受けする訳にはいかぬ」
「ここでお受けにならずに」
「定まってからにするわ、それにて九州と奥羽の残りを収めても」 
 ここでこうも言った信長だった。
「もう一つ気掛かりがある」
「上様が時折仰っておられる」
「そうじゃ、近頃特に気になっておられる」
「その何かをな」
「何かを見極められますか」
「そうしたい」
 このこともだというのだ。
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