巻ノ三 由利鎌之助その六
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「美濃を収めていた織田家には仕えずあちこちで雇われ兵として働き。堺にもいたとか」
「そして今はですか」
「思うところあり山の中で修行をしておるとか」
「そうした者がいるのですか」
「はい、身共はお仕え出来ませぬが」
それでもというのだ。
「その者に声をかけられてはどうでしょうか」
「さすれば」
幸村は楽老の言葉に頷いた、そしてだった。
穴山と由利にだ、顔を向けて言った。
「ではな」
「はい、その山に入り」
「そしてですな」
「その者に会おうぞ」
「実はその山は崖が多く川の流れも激しく」
そしてというのだ。
「水練の鍛錬にはいいとのことです」
「そういえばその者は水練が得意ですな」
「そうです、それでは」
「行って来ます」
幸村は楽老にはっきりと答えた。
「あの山に」
「そうされるか。しかし」
ここでだ、楽老は幸村に笑ってこうも言った。
「真田幸村殿にお会い出来て何より」
「拙者にですか」
「いい目をしておられる、相もいい」
顔も見て言うのだった、幸村のそれを。
「天下一の方になられますな」
「拙者天下取りに興味はござらぬが」
このことは真田家自体がだ、真田家は自分達さえ守られ生き残ればそれで満足だ。滅びなければいいのだ。
だからだ、ましてや天下なぞはなのだ。
「天下人になぞ」
「いや、人としてです」
「人としてですか」
「天下一の方になられますな」
「天下一の者に」
「身共はこれでも人を見る目には自信がありまして」
それでというのだ。
「わかるつもりです」
「人相見もですか」
「出来まする、その身共の見たところですが」
幸村、彼はというのだ。
「必ずやそうなられましょう」
「それはよきこと」
「殿が天下一の方になられるとは」
穴山も由利も喜ぶことだった、楽老のその言葉はだ。
「ではそれがし達もその殿にお仕えし」
「殿を是非盛り立てましょう」
「そして必ずやです」
「殿を天下一の方に押し上げまする」
「家臣の方にも恵まれておりますな」
楽老は二人も見て笑って言った。
「よきことですな、では」
「はい、また機会があれば」
「お会いしましょうぞ」
楽老は笑顔のまま幸村一行と別れた、そしてだった。
幸村達がその山に向かうのを見届けてからだ、楽老は。
踵を返して何処かに向かった、その向かう先は。
美濃の方だった、その美濃に向かうと彼にもだった。周りに黒装束の者達が来て彼に対して問うてきた。
「幻翁殿、では」
「これより我等もですな」
「美濃から大和に入り」
「あの国を調べますか」
「そうしようぞ、しかし」
老人とは思えないまでの速さで険しい山道を進みつつだ、楽老は忍の者達に話した。
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