第一幕その六
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「動物園があまりにも多忙なので」
「そういえば最近入園者の多いですね」
「春休みなので」
だから余計にというのです。
「人手が足りないです」
「そういうことですか」
「お嫌でしょうか」
「いえ、実はそろそろ旅行に行きたいと思っていました」
先生は老馬とのお話を思い出しつつ日笠さんに答えました。
「もうすぐ動物の皆が来るので彼等ともそうしたことをお話しようと思っていました」
「旅行に行きたいと」
「そう思っていました、ですが」
「このお話が来たので」
「是非にです」
先生はまるでピクニックに行く前の子供の様にその目を輝かせてでした、日笠さんに言うのでした、この言葉を。
「行かせて下さい」
「そう仰ってくれますか」
「はい、奈良ですね」
「奈良県南部、和歌山県との境です」
「山がとても多い場所ですね」
「というか山しかない場所です」
日笠さんは奈良県南部についてこうお話しました。
「あそこは」
「相当山が深いのですね」
「そして木もとても多いです」
「自然が豊かな場所」
「そうした場所です」
「そうでしたね」
「そちらに行かれたことはないですね」
「奈良県の南部はないです」
先生は日笠さんに正直に答えました。
「あちらには、しかしいい機会ですね」
「行かれてそして」
「はい、調査してきます」
「有り難うございます、ではお願いします」
「そうしてきます、ただ」
「ただ、とは」
「奈良県は北部と南部で全く違う様ですね」
先生は日笠さんにこのことを尋ねました、奈良県の地域性について。
「昔から同じ一つの地域ですが」
「大和といった時ですね」
「その時から一緒ですよね」
「そうですね、同じ地域なのは確かですが」
それでもとです、日笠さんは先生の質問に答えました。
「北部と南部で。奈良県は全く違います」
「やはりそうですね」
「北部は盆地で人口も多いです」
「しかし南部は山がちですね」
「むしろ山しかありません」
それが奈良県南部だというのです。
「鬱蒼とさえしている位に木が多く」
「人も少ないですね」
「人口は全く違います」
北部と南部で、というのです。
「開けているのは北部です」
「そうですね」
「政庁のある奈良市、そして郡山市や橿原市、天理市や桜井市それに宇陀市は全て北にあります」
「本当に北に集中していますね」
「しかし南は昔からそうした場所です」
山ばかりだというのです。
「あの地域は」
「そこに行くのですね、僕は」
「それでも宜しいでしょうか。観光はあまり出来ないかと」
「いえ、喜んで」
心からです、先生は日笠さんににこりと笑って答えました。
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