踏み外した歴史編
第5話 “洗礼”と“資格”
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ったな”
“ああ。それが?”
“どうやった?”
“どうって。碧沙の血から造った免疫血清、何回も打たれてさ。死んだほうがマシって何度思ったことか。まあ今はそんな気起こさなくてよかったって思うけど”
“その免疫血清とやらはどこにある”
“タワーの中。それ以上は俺も知らされてない。見つけたたった1本は碧沙に使ったし”
“――そうか”
「湊。注射器は扱えるか」
「……一応の資格は持ってるわ。ただ、もっぱら注射して『抜く』ほうだけど」
「この事態で資格がどうこう言っていられるか?」
戒斗はゆらりと、頭を斜めにして下から見上げるように、耀子をふり返った。
耀子は知らず1歩引いていた。戒斗のまなざしは、覚悟などを通り越した先にある何かを湛えていた。
「できんのなら自分でやる」
「……いいえ。素人が変な打ち方して神経を損ねたら大事だわ。それにあなたが摂取しようとしてる量は多すぎる。点滴のほうが効率的よ。準備するから待ってなさい」
戒斗への免疫血清の点滴は、碧沙や裕也を軟禁していた医療棟で行うことにした。
点滴を受ける間、戒斗は医務室の一つのベッドに横たわり、傍らに耀子が付く形となった。
「違和感があったらすぐ言うのよ。これは本来、ヘルヘイム感染やインベス化した人間に打つ薬。そのどちらでもない健康体のあなたに打って、どんな副作用が出るかは分からないんだから」
「ああ」
管を通り、針を通り、戒斗の体内にヘルヘイム抗体が流れ込んでいく。新たな力に至るための物質を取り込んでいく。
「聞いていいかしら」
「何だ」
「あなた、そこまでして世界をどう造り変えたいの?」
点滴が終わるまではまだ長い。この女はどこまでも戒斗に着いて来るだろうから、言ってみてもいいかもしれない。そんな酔狂を起こした。
「――弱者が虐げられない世界だ」
戒斗は幼少期にあった父母にまつわる体験と、そこから得た理念を耀子に語って聞かせた。
「言っておくが、同情なんぞしようものなら叩き潰すぞ」
「しないわよ。少女時代なら私もそれなりに色々なことがあったから」
「ならいい。――まだか」
「そろそろ終わりね。ちょっと待って」
耀子は診療台車から酒精綿を取り、戒斗の腕から針を抜いた。酒精綿で患部を拭き、四角い絆創膏を貼る手際はしっかりしていた。資格持ちという本人申告は嘘ではなかったらしい。
「終わりよ。起きていいわよ」
戒斗は起き上がり、脱いであったコートを着直した。
「これで準備は整った」
つい口の端が吊り上がった。順番が逆だが、これにて戒斗はまた一歩前進した。
「大量の抗体を取り込んだ今の俺には、一時的にとはいえこ
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