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Muv-Luv Alternative 士魂の征く道
第三四話 忠信
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延びて

「何故貴女だけが助けられて」
 何故自分だけが助けられて

 繰り返される彼女の言葉に、自分の中のもう一人の声が重なる。
 和音となりてそれは唯依に責め進んでくる。

「何故今、そんな風に要られるの?―――これは逆恨みよ、でもね不平等や不条理を感じ憤るのに理屈なんて要らないわ。だって感情よ、理屈で動くわけがない」

 自分だけが生き残り、他のみんなは死んだ。
 それは不平等だ、不公平だ。
 単に運が良かっただけ、そう云うことは簡単だ。それが現実なのだろう、それで割り切れないのが人間なのだ。


「だから私は甲斐君みたいには許せないし、許す気もない。貴女が泣いて謝って、たとえ死んだとしてもね。」
「―――なら、どうすれば良いんですか。」

「知らないわ、自分で考えなさい。別に貴女が幸福になっちゃいけないとか言う気はないのよ、ただ私が許さないだけ。それ以上に意味はないわ。」

 突き放すような言葉。
 つまり、唯依が償いとしてどれだけ戦火に身を投じようと彼女は許さないと言っているのだ―――永遠に許されない罪。所在のない罪はそれゆえに許されることがない。

「……許さないのに何もしない…のですか。」
「ええ、そうよ。ただ私は許さないだけ。」

「―――私に復讐しようとは思わないのですか。」

 そんな愚にもつかない事を聞いてみる。
 しかし、ポニーテールを揺らす彼女は鼻を鳴らしてそれを拒絶した。

「それであの子が帰ってくるの?無意味な問いはやめて腹が立つだけだから。
 ―――軍人はね、死者の蘇生なんて望まないのよ。そんなことよりもより多くの敵を殺して、味方を生かす方を考える。
 それが斯衛の衛士としての私の誇り……軍人としての矜持なのよ。」
「………」

 心は自由でもいい、だが立ち振る舞いを自由という大義名分で好き勝手にするのは只の身勝手だ。
 彼女、今井智絵はそんな当たり前のことを告げている。


「だから、斯衛の軍人としてあなたの大切な人は守ってあげる……それが私の使命だから。
 彼女にそうあるべき姿と教えた私の筋の通し方なのよ。」
「………っ!!」

 そうだったのか、と悟った。
 志摩子はいつも自分をフォローする行動ばかりだった。だからこそ自分のことが疎かになりやすくなってしまっていた。
 自分は彼女が死ぬまでそれに気づかなかった。
 内心では見下していた部分もあっただろう、なのに志摩子は最期まで自分に尽くしてくれた。
 その主君を支える臣下としての在り方を示し、説いたのは目の前の女性だったのだ。


「泣くのは好きじゃないの。死体に縋って泣いて怒って、そんな醜態を晒す酔漢を斯衛の軍人とは呼べないでしょ。斯衛の軍人としてかくあるべきと口にした
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