8部分:第八章
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今までここにおられたと」
「そうです。街の方々を怖がらせはしましたが」
しかし彼は決して人を襲いはしなかった。そうしてにこりと笑うのだった。
「私はここで待っていたのです」
「待っていた!?」
「そうです」
また答える。
「貴方達が来られるのを」
述べるのであった。
「ずっと待っていました」
「私達をですか」
「このことを。ずっとお伝えしたいと思っていました」
笑みは次第に神々しいものになる。そうしてそれは二人にも伝わった。
「貴方達に対して」
「そうして」
また言う。
「ここにいたのです。このことを伝えたくて」
「貴方のその心を」
ベネヴィクトはそれを今知った。
「おわかりでしょうか。私はできると考えているのです」
顔を上げる。澄み切った顔で。
「何時か。ここでも平和が訪れると」
「このバルカンにですか」
グレゴリオはそれを聞く。
「平和が」
「そうです」
今三人の心にバルカン半島のことが思い浮かんだ。それまで戦乱に覆われ飽くなき殺戮が繰り返されてきたこの半島を。今思い浮かべたのである。
「確かに人は悲しい存在です」
ここで一旦悲観的な言葉を口にした。
「ですが。それ以上に」
「それ以上に」
「私は期待します」
こう言うのだった。
「人の心を。これはあらゆるものを越えて」
「民族も」
「全てを」
「そう、そうしたものの垣根を全て越えてお互いを理解できて」
「それは可能でしょうか」
ベネヴィクトはその言葉に俯いた。
「果たしてそんなことが」
「できます」
しかしアレクセイは言うのだった。
「私はそれを見ましたから」
「きっとですか」
「残念ですが私は生きてそれを見届けることはできません」
それは認めるしかなかった。既に彼の肉体はないからだ。それは既に地の底だ。こうなってしまえばもうどうこうすることもできはしない。
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