case.2 山中にて
W 同日 pm9:52
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思うのだが…?
まぁ、二人は全く気にしていない様だし、納涼として考えればいいか…。
「それじゃ、やるか!」
俺が言う前に、鈴木が嬉々として答えた。俺は苦笑いしながらそれに賛同し、二人と共に外へと出たのだった。
外へ出ると、頬を心地よい夜風が撫でて行く。見上げると満天の星空が広がっていたが、月は山蔭に隠れて見えなかった。
そんな闇の中、童心に戻って花火をしてみると、これが意外に楽しい。
「子供の頃を思い出すなぁ。あの頃はなんも考えちゃいなかったがな。」
鈴木が呟いた。今でも何も考えちゃいないように見えるが…。
暫くは三人で楽しんでいたが、俺はふと思い、楽器を取りに行った。
花火が慰霊のために捧げられるとしたら、音楽も同じようなものだ。それに、こんなとこで演奏ってのも、なかなか粋なものなんじゃないかと思っただけだ。
小さな村。だが、ここで生きて死んでいった者達も多いことだろう。
俺はそんな先人達に敬意を表し、花火が彩る夜の闇に音楽を奏でたのだった。
残るは打ち上げだけとなった頃、小林は山小屋へと入って行った。残された鈴木は、なにやら予備の導火線を使って花火に細工をしているようだ。
鈴木が花火を並べ終えて戻って来たとき、小林も中から戻ってきた。
手には自身のヴァイオリン・ケースと、鈴木のトラヴェルソ・ケースが握られている。
「いいぞ。」
小林がそう言うと、鈴木はトラヴェルソを取り出してから導火線に火を点けた。
「ヨハネのコラールだ。」
鈴木が短くそう告げると、俺達は静かに演奏を開始した。その直後、花火が次々と打ち上がり始めた。
これもバッハの作で、“ヨハネ受難曲”からの終曲コラール“Ach Herr,lass dein lieb Engelein”。
本来は声楽曲だが、今は合唱団はいない。そのため器楽のみの演奏だが、やはり美しいコラールだ。四声の単純な編曲だが、この和声の美しさは、とても言葉では言い表せない…。
どこまでも優しく、深い祈りの中に希望を感じさせる…、そんな曲だ。
演奏が終わる頃、花火も最後の一本が打ち上がっていたが、それも名残惜しそうに花開いて…そして消えていった。
その最後の輝きが消え去り、辺りに夜の闇が戻ってきた時だった。
―プァーッ…!―
何の前触れもなく、車のクラクションのような音が、山々の間に響いた。
俺達は驚きのあまり立ち上がり、音が響いたであろう方角に視線を向けた。
すると、山間からバスの姿がハッキリと浮かび上がり、そのまま隣の山間へと消えて行ったのだった…。
「あれ…、バスだよな…?」
小林が震える声で呟いた。
「ああ…、バスだった…。」
俺は小林の言葉に返答した。いや、それしか言えなかった。
「あんなとこに道なんて
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