3部分:第三章
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第三章
「先の戦争でも誰もが殺し合い、そうしてまた血に覆われ」
「また憎しみが深まり」
「何時かそれがなくなればいいのですが」
「それができればいいのですが」
グレゴリオは言う。しかしそれは適わぬものにも思えた。
「ですが今は」
「果たせませんか」
「私は何の力もありませんでした」
また過去を見て語る。
「今もまた」
「ですがグレゴリオさん」
ベネヴィクトも声は沈んでしまっていた。しかしそれでも彼に対して言うのだ。
「我々もまた」
「はい。行くしかありません」
こくりと頷いて答える。
「我々の行くべき場所へ」
「行きましょう、是非」
グレゴリオを励ますようにして言う。今二人は何もない荒野を進む。果てしないと思われた荒野もやがて終わり小さな街が見えてきた。それが彼等の赴任する街だったのだ。
「ここですね」
「はい」
グレゴリオはベネヴィクトの言葉に頷く。
「この街の教会です」
「そうですね。しかし」
その東欧風の建物が並ぶ小さな街を応える。
「人がいませんね」
「外にはですね」
グレゴリオは答える。
「誰も出ていません」
「まさかとは思いますが」
ベネヴィクトは恐る恐るグレゴリオに声をかける。
「この街もまた」
「まさか」
グレゴリオはその言葉に顔を暗くさせる。
「ですがこの辺りも戦乱があったのですよね」
「ええ、確か」
その問いに苦い顔で頷く。それは彼もわかっていた。そもそもがこの辺りの民族紛争が発端となった戦いである。皇太子をセルビア人に殺されたオーストリアがクロアチア人を炊きつけたりもしたのだ。これがバルカン半島の歴史だ。大国が介入して互いを憎み合わせたりもする。そうして悲劇は無限に増えていっているのだ。
「この村はクロアチア人の村です」
「そして」
「隣にはセルビア人の村があります。だから」
「殺し合いが行われたのは間違いないでしょうね」
「おそらく」
暗い顔で答える。この地域での殺戮は実に生臭く醜悪なものもある。惨たらしい虐殺だけではない。女子供であろうとも容赦なくその対象にする。所謂民族浄化も以前からある。混血児が何故存在するのか。それは決していい結果だけではないのである。
「あったでしょう」
「それにしてもですね」
ここでベネヴィクトは首を傾げて言ってきた。
「何でしょうか」
「この辺りは本当に住んでいる場所まで入り組んでいるのですね」
「そうなのです」
グレゴリオはその言葉にも答える。答えながら深く息を吐き出す。
「そもそもですね」
「そもそも?」
「彼等は同じスラブ人なのです」
実はそうなのだ。セルビア人もクロアチア人も同じスラブ人なのだ。言語や風俗習慣も実によく似ているのである。その違いというと。
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