2部分:第二章
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した」
一歩一歩がまるで人生の歩みのように遅く、重くなっていくのを感じていた。それを感じると心がさらに重くなることも感じていたのだった。
「けれど。何もかもが同じでした」
「何もかもが」
「教えの中身が違うだけで。私達もまた憎悪に歪んでいたのです」
「正教の者達と同じく」
「思えば当然なのです」
グレゴリオはこうも言う。
「私達は互いに争い、殺し合っているのですから。当然なのです」
「グレゴリオさん」
ここでまたベネヴィクトは彼に顔を向けて問う。
「その時の争いでは何も残らなかったのですね」
「憎悪だけが残りました」
首を横に振ってベネヴィクトに述べる。
「他には何も。憎しみが生み出すのは憎しみだけです」
「憎しみだけですか」
「他に何が生まれますか?」
逆に彼に問うてきた。
「憎しみから何が。生まれるものは何もないのですよ」
「はあ」
「私は何も出来ませんでした」
前を見るその目が遠くを見ていた。しかし見えているものは決していいものではない。深く沈んで明るいものは何もなかった。それがグレゴリオがここで見てきたものだったのだ。
「彼等の争いを止めることも何も。お医者さんもまた」
「傷ついた者を助けるだけですか」
「傷が癒えたならばすぐにまた戦いに向かう」
「そんな、それでは」
「だからです」
彼は言う。
「そこには何もないのです。傷を受け倒れている間も呪詛の言葉を吐き、そして傷が癒えたならば復讐を考える。それの繰り返しばかりでした」
「その結果がこの有様ですか」
「丁度この辺りでした」
一本の大きな木が右手に見えた。その木も枯れ果てていた。少なくともそこには緑の恵みも豊かさも何もなかった。幽霊のように立っていただけだった。
「セルビア人とクロアチア人達が殺し合ったのですよ」
「同じカトリックのでしょうか」
「はい、その通りです」
グレゴリオは歩きながら静かに答えてきた。
「私も医師も止めようとしました。しかし憎悪に燃える彼等はそれを聞かず」
「殺し合い。そして」
「誰もいなくなりました。後には血の匂いと屍だけがありました」
「やはり」
「その結果。ここには誰もいなくなったのです」
この荒野を生んだのは憎しみだったのだ。果てしない憎悪と殺戮が人も何もかもを消し去ってしまったのだった。グレゴリオは今それをベネヴィクトに語っていた。悲しい過去と真実を。
「神は助けられなかったのでしょうか」
ベネヴィクトはそこまで聞いて上を見上げた。そうして深い溜息をついた。
「彼等の心を」
「どうなのでしょうか」
グレゴリオはそれに答えない。答えられなかった。
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