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三人の神父
1部分:第一章
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「じゃあその時のことは」
「今でもはっきり覚えています」
 彼はそう述べる。
「隣人同士が争い醜く殺し合う。しかも同じ神の下で」
「同じ神の下で」
「例え兄弟であってもです。民族が違うという理由だけで」
「民族がですか」
「他にも争う理由はありました」
 彼はまた述べた。風が吹いてきたが乾いた風だった。埃だけが舞い二人の法衣に付く。
「同じ民族であっても神が違うという理由で」
「ここの複雑さは私も存じているつもりです」
 ベネヴィクトは悲しい顔をしたままのグレゴリオに述べてきた。
「戦争が絶えなかったことも」
 この半島、一時期ユーゴスラビアと呼ばれた地域に様々なものが詰まっていたのだ。二つの文字に三つの宗教、四つの言語、五つの民族、六つの共和国、七つの隣国という言葉が第二次世界大戦後にあった。そうした地域である。様々な民族が様々な宗教、文字、言語と共に入り混じりモザイクとなっていたのである。しかも混血もあった。全てが複雑に入り組んだ社会だったのである。
 二人はローマからここの教会に派遣されてきているのだ。つまりカトリックである。この半島にはカトリックも存在し力を持っていたのである。
「ですが。この有様は」
「ベネヴィクトさん、貴方はここには来られたことはないのですね」
「はい、そうです」
 ベネヴィクトはあらためてそれを答えてきた。
「フランスやスペインには行ったことがありますが」
「どちらもカトリックの力が強い国です」
「ええ、その通りです」
 グレゴリオのその言葉にこくりと頷く。彼はグレゴリオの横を歩いている。年老いた彼の足に合わせてわざとゆっくりめに歩いている。
「特にスペインはそうでした」
「異なる宗教が共にある社会は御存知なかったのですね」
「そうです」
 また質問に答えて頷く。
「そうしたことは何も」
「それは私も同じでした」
 グレゴリオは前を見て歩きながら述べる。目は遠くのものを見る感じであった。
「オーストリアのカトリックの強い地域にいましたから」
「はあ」
「最初にここに来た時は特に何も考えてはいませんでした」
「どう思われていましたか?」
「普通の戦争だと思っていました」
 そう述べる。
「よくあるような銃や剣を使った。しかし」
「しかし?」
 グレゴリオの言葉に顔を向ける。その顔が怪訝なものになっていた。

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