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蒼き夢の果てに
第6章 流されて異界
第119話 有希
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まる。
 但し、勝負を掛けて来た時の自称リチャードくんは、自らと相手のバッターを自らの作り出した異空間で包み込む事が出来るようなので、外から見ている俺と、打者として立って居る有希とでは感じている物が違う可能性は大きいのですが。

「お前、未だ人間の振りをしていたいのか?」

 神経を逆なでするような声で淡々と。しかも、疲れ切った者の声で続けるマウンド上の自称リチャードくん。
 弱い……とは言え、良く晴れた午後の陽光が降り注ぐ校庭。冷たい……とは言え、六甲から吹きつける風は自然の気を運び来る、ここは何の変哲もない普通の世界。

 しかし、何故かその世界の中心に色彩、と言う物が消失した空間が広がる。

「人形が人間に成る。滑稽だな、こりゃ」

 俺たちの操り人形だった癖に。
 ゆっくりと振り被る自称リチャードくん。今度はランナーとしての俺の存在も無視。

 しかし、俺は動かず。これは当然、動けない訳ではない。まして体力を温存している訳でもない。
 ただ、何となく盗塁する気が起きないだけ。ヤツ……自称リチャードの背後から有希を見つめるのは問題がある。何故かそう感じる。

 有希の視線は投手の方向から変えられる事はない。その瞳は普段通り――
 そう考え掛け、しかし直ぐ、その中の違和感に気付く俺。確かに普段の彼女の瞳は、それほど感情を表現する瞳ではない。しかし、僅かな揺れ。微かな光によって、その時の彼女の気分を感じさせる瞳であるのは間違いない。
 そう、それはおそらく微かな感情の起伏さえも伝えて来る霊道からの情報を、細かく、かつリアルに得る事が出来る俺だけの能力。

 しかし、今の彼女の瞳は――
 殺気は感じられない。敵意……もないと思う。おそらく、自称リチャードの事……出方を窺っている、と言う訳でもない。
 それは非常に無機質な……人形の瞳。人の形に似せて作った偽物の瞳。

「ストライック、ツー!」

 俺自身、一度も見た事のない有希の表情に驚いた瞬間、キャッチャーのミットに納まる直球。コースは真ん中辺り。球速も並み。
 どう考えても、有希が簡単に見逃す球ではない。

「なぁ、長門」

 間を置かずキャッチャーより返されるボール。その、妙に白い硬式球を受け取り、

「人間と人形。存在自体が違うこの異種の間で、恋愛が成立すると本気で思って居るのか?」

 本当のお前を知らないアイツとの間で。
 虚無……。いや、違う。今のヤツに、本当に何も存在していない訳ではない。ただひとつ――悪意と言う部分のみが存在するが故に、世界を内包した完全な何か()に成り切れなかった邪神が囁く。

「本当のお前を。何処から来たのか。今まで、何をして来たのか。何をしなかったのか」

 そして今、何をしているの
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