第二百十四話 家康の馳走その四
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「さて、徳川殿は」
「三河武士でおじゃるからのう」
「しかも質素な方でおじゃる」
「それもかなりでおじゃるな」
「だからでおじゃる」
それで、というのだ。
「この度の宴も」
「間違いなく質素でおじゃるな」
「さて、何が出て来るか」
心配そうに言う山科だった。
「不安でおじゃる」
「しかし」
その山科にだ、近衛はこう言ったのだった。
「それはでおじゃる」
「決して、でおじゃるか」
「はい、心のないものではおじゃらぬ」
家康の宴、それはというのだ。
「それは間違いないでおじゃる」
「徳川殿は心のある方であるが故に」
「必ずでおじゃる」
開くその宴もというのだ。
「よいものでおじゃる」
「そうでおじゃるな、確かに」
山科も家康のことは会って知っているので近衛の言葉に頷いたのだった。
「では」
「この度の宴も楽しむでおじゃる」
「それでは」
近衛の言葉にあらためて頷いてだった、山科は応えた。元就はその公卿達を見つつ息子達にこう言った。
「公卿の方々もおわかりになられた様じゃな」
「今宵の宴がどういったものかをですか」
「おわかりになられた」
「そうだというのですな」
「そうじゃ」
その通りだというのだ。
「今日の宴は贅沢ではないが」
「確かなものがある」
「そうした宴ですな」
「この度は」
「それを見せてもらおう」
こうも言った元就だった。
「これからな」
「はい、では」
「今は、ですな」
「この場で待つのですな」
「馳走が来るのをな、酒もな」
元就は笑って酒のことも言った。
「飲ませてもらおうぞ」
「そしてその酒も」
「贅沢なものではなく」
「心があるものですな」
「そうじゃ、しかし徳川殿は」
元就も家康のことを言うのだった。
「思わぬ雄飛をされたな」
「ですな、織田家に隠れていますが」
「あの方もです」
「相当に大きくなられました」
「百六十万石じゃ」
元就はこの石高のことも言った。
「今川家に仕えていたのが」
「それが今や」
「そこまでの大身ですから」
「相当な御仁じゃ」
「ではその器をですな」
「これから我等も」
「見ますか」
息子達も応える、そしてだった。
毛利家の者達も家康の宴の中にいた、まずはそうした質素で質実剛健な催しからだった。その馳走もであった。
酒を見てだ、元親は己の家臣達に言った。
「これは三河の酒じゃな」
「ですな、どうやら」
「この酒は」
「ふむ、この近畿のものでも尾張のものではない」
「まさに三河のですな」
「三河の酒ですな」
「面白い」
その三河の酒を見つつの言葉だった。
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