5部分:第五話
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」
剣を投げた。それで最後の勝負で出たのだ。
それを見た秦王は咄嗟に柱の陰に身を隠した。剣は鈍い音を立ててその柱に突き刺さった。
「まだ動くか!」
秦王はそれを受けて完全に頭に血が登った。そして彼に斬りかかりその感情のおもむくまま斬りつけた。
彼がようやく落ち着いた時には荊軻は切り刻まれ無残な屍となっていた。こうして彼は死んだ。
秦舞陽はその間全く動くことができなかった。やはり彼にはこの大任はあまりにも荷が重かったのであった。
秦王がこれに激怒したのは言うまでもない。即座に燕に兵が進められ丹はその責を問われて殺された。そして燕も滅んでしまった。
荊軻は最後まで信頼できる友人を待っていた。だがそれは遂に姿を現わすことはなかった。もしかすると本当にいたのかも知れない。いなかったかも知れない。それは荊軻以外の誰にもわからない。
だが彼にはもう一人友人がいた。高漸離という者である。
彼は筑という楽器の名手であった。その名は天下に知れ渡っていた。
これを聞いた秦王は彼を呼んだ。そしてその筑を実際に聞いてみた。
「ふむ」
彼はそれを聞いていたく気に入った。だがここで問題が起こった。
「陛下」
彼に注進する者がいたのである。
「あの高漸離という者ですが」
「あの者がどうした」
その者は高漸離のことをよく知っていたのである。
「あの者は荊軻の友人ですぞ」
「何っ」
それを聞いた秦王の顔色が一変した。
「それはまことか」
秦王は問うた。
「はい」
彼はそれに頷いた。
「共に酒を飲み親しく語り合っていた親友同士でございます。御側に置くのは危険かと」
「間違いないな」
「何故嘘を申しましょうか」
彼は自信を以ってそう答えた。秦の法では讒言は死罪である。だが彼はそれをあえて行ったのである。
「わかった」
秦王はそれに頷いた。
「今すぐ調べよう。だがそれが嘘であった場合は」
「わかっております」
彼は答えた。こうして調査が開始された。
その結果それは正しいことがわかった。周りの者は高漸離を殺す様に進言した。しかし冷酷な秦王も今回は悩んだ。
「殺すには惜しい人物だ」
「何故でございますか」
「あの筑の音を聴いたであろう」
秦王は彼等に対して問うた。
「はい」
「あれだけの演奏はそうそう聴けるものではない。そなた等もそう思わぬか」
「は・・・・・・」
彼は音楽も愛していたのである。
「だが予の命を狙っている可能性は充分にある。それは用心せねばな」
だがだからといって警戒を怠る人物でもなかった。
「目を潰せ」
彼は言った。
「そうすれば安心して側に置くことができる」
「はっ」
こうして高漸離の両目は潰された。そのうえで秦王の側に置かれた。
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