4部分:第四話
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秦王の前に来た。彼はそこで二人を睥睨していた。
「よくぞ来た」
地の底から響き渡る様な声であった。
「燕からはるばる御苦労であったな」
「はっ」
荊軻は跪き頭を垂れた。秦王は彼に対して言った。
「顔を上げよ」
荊軻はそれに従った。
「名は何という」
「荊軻でございます」
彼は答えた。
「荊軻か。よい名だ」
「有り難うございます」
儀礼的なやりとりをしながら秦王の顔を見る。やはり極めて強烈な個性を感じさせる顔であった。
彫が深く極めて高い鼻をしている。どちらかというと白い顔だ。
眼は青く水の色をしていた。それとは反対に髭も髪も赤く長かった。中原では見られない顔立ちであった。
(秦の血か)
荊軻はそれを見て思った。秦は昔から漢人の血が薄い国とされていたのだ。
それが為に色々と軽蔑されることもあった。だがそんな彼等も今やこの天下で第一の国となっている。それが動かせない事実であった。
そしてこの秦王の力も動かせない事実であった。今天下は彼の手の中に収まろうとしているのだ。
(そうはさせぬ)
荊軻は心の中で呟いた。そしてそこで刃を抜いた。
「荊軻よ」
秦王は彼に対して声をかけた。
「貢ぎ物はどれだ」
「はっ」
彼はそれに従い手に持っていた箱を前に出した。そしてその中を開けた。
そこには樊於期の首があった。塩漬けにされたものである。
「うむ」
秦王はそれを見て満足そうに頷いた。
「皆の者」
そして左右の廷臣達に向けて言った。
「予に逆らう者は全てこうなる運命である」
やはり重く低い声であった。荊軻はそれを聞きまずは地響きを思い出した。
(似ているな)
まさしくそうした声であった。彼はその声に恐ろしいまでの威圧感を感じていた。
その威圧感は声からだけではなかった。秦王はその全身から異様なまでの気を放っていた。まるでこの世の全てを覆わんばかりであった。
(流石だ)
荊軻はそう思った。
(天下を一つにせんとするだけはある)
まさしく王の気であった。いや、王よりも器は大きいかも知れない。彼はそう考えると目の前のこの異様な人物に対して畏怖すら感じた。
だがこの男を今から暗殺せねばならないのだ。彼は抜いた刃を秦王に向けた。
「では次は地図だ」
秦王は首を確認し満足した後で言った。
「見せるがよい」
「わかりました」
荊軻はまた応えた。そして地図を入れた箱を前に出してきた。
「こちらです」
「うむ」
荊軻はその箱をゆっくりと開けた。そして中から一本の巻物を取り出した。
「これでございます」
彼はそれの紐を解いた。そしてその中を見せていく。
「燕の南方の地図でございます。我が国で最も肥沃な土地です」
「燕でか」
「はい」
荊
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