4部分:第四話
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った。彼の読みは当たっていた。
「もう一つあります」
「献上する品がか」
「はい、逆賊樊於期の首でございます」
「何っ」
それを聞いた秦王の声がうわずった。まるで地の底が揺れる様な声となった。
「それはまことか」
「はい。この目で見ました故。間違いありませぬ」
「ふふふ、そうか」
彼はそれを聞いて笑った。
「どうやら燕も慌てているようだな。だがこれはよいことだ」
彼は低く笑いながらその側近に対して言った。
「よし、その使者に伝えよ」
「はい」
「予が直々に会うとな。最高の礼を以って迎える。よいな」
「わかりました」
ここで秦王は周りの者に対して言った。
「すぐにその準備に取り掛かるがよい。一国が手に入った祝いでもあるぞ」
「ははっ」
彼等は頭を垂れた。こうして荊軻は秦王に会うこととなった。
秦の宮殿は巨大であった。秦王が天下にその威を示す為に造り変えたものであった。それは将に帝王の城そのものであった。
荊軻はその中に入った。広大な庭の中央に道が開かれていた。
その左右に兵士達が整然と立ち並んでいる。皆武装しその道を守っている。
「強いな」
荊軻は彼等を見ながら呟いた。その様子からこの兵士達がよく訓練された強兵であることを見抜いていたのだ。
馬車から降りた。そして歩いて前を進んでいく。
だが進むうちに共を務める秦舞陽が宮殿と兵士達の威容に圧倒され震えだしてきたのである。
(やはりな)
荊軻の予想通りであった。だから彼は慌てなかった。
「お待ち下され」
ここで庭を守る将校の一人がそれに気付いた。
「そちらの方の様子がおかしいのですが」
「はい」
荊軻がそれに応えた。
「この者は北の辺境の地の者、これまでこうした場所には来たことがありませぬ。その緊張のあまり震えているのでしょう」
「そうでしたか」
「はい」
(この男はあてにはできないな)
荊軻は応対しながらそう考えていた。自分一人でことを為す決意をした。
二人は上に上がった。そこが本殿であった。
その本殿は極めて広かった。見れば玉座は遙か彼方にあった。
「秦王様です」
その入口にいた文官の一人が彼等に伝えた。
「はい」
荊軻はそれに応えた。秦舞陽を従え前に進む。
秦王は遠くで鎮座していた。左右には秦の高官達が立ち並びその脇を固めている。秦王はその中央で豪奢な玉座に座り彼等を待っていた。
二人は進む。荊軻は秦舞陽を急かしながら前に進む。
「しっかりせよ」
「は、はい」
だが彼は身体が完全にすくんでいた。荊軻はそれを見ていよいよ彼を心もとないと見放した。
(これは役には立たぬ)
しかしそれは最初からわかっていることであった。彼はそれでも事を成し遂げるつもりであった。
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