3部分:第三話
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殺され燕に逃げ延びてきているのだ。そして丹が彼を匿っているのだ。
「荊軻殿お待ち下さい」
丹は彼を止めにかかった。
「将軍は私を頼って来られました。そのようなことはとても出来ません」
「しかし」
だが荊軻もこれは譲れなかった。
「どうかここは他のことで済ませて頂きませぬか。これは心からのお願いです」
荊軻はそれに対して苦い顔をした。だがどうにもなるものではなかった。丹の心が硬いのは明らかであった。
彼はそれを察しその場は退いた。だがその足で樊於期の下に向かった。
「将軍はおられますか。荊軻という者ですが」
「荊軻殿が」
彼は丹の客人として知られるようになっていた。樊於期はそれを聞いて門に姿を現わした。
「おお、貴殿があの荊軻殿ですか。お話は常々聞いております」
「はい」
荊軻はそれを受けて礼を返した。だがその顔は笑ってはいなかった。
(むっ)
樊於期はそれを見て何かを思った。だがそれは顔には出さなかった。
「お話したいことがあるのですが」
荊軻は顔を上げて彼に言った。彼はそれを受けて荊軻を屋敷に導きい入れた。
自室に案内する。そこには机と書物が数冊あるだけだった。武人らしく質素な部屋であった。
「どうぞお座り下さい」
「はい」
二人は向かい合って座った。樊於期はそこであらためて荊軻に尋ねた。
「してお話とは何でしょうか」
「はい」
荊軻はそれを受けて話をはじめた。
「秦についでですが」
「秦」
それを聞いた樊於期の眉がピクリ、と動いた。
「あの国の法はあまりにも惨いものがあります」
「はい」
樊於期がそれに頷かない筈がなかった。これは読み通りであった。
「些細なことで惨い刑罰を課し、それは一族郎党にまで及びます。またその追及も執拗で将軍にもかなりの懸賞がかけられております」
「その通りです」
樊於期はそれを受けて応えた。
「今もそれを思うと痛みが骨にまで滲みるようです」
「骨にまでですか」
「はい」
彼は答えた。
「この恨み、何としても晴らしたいのですがそれも適いません。口惜しさだけ噛み締める日々です」
「左様ですか」
荊軻はそれを受けて頷いた。
「その心、お察しいたします」
「はい」
彼はそれに頷いた。
「ですがそのご無念、一つだけ晴らす方法があります」
「本当ですか!?」
樊於期はそれを聞き思わず身を乗り出した。
「それはどの様なものでしょうか」
「燕の憂いも、将軍の仇討ちも出来るものです」
「その様なものがあったのですか」
彼はそれを聞き曇りの中から白日を見た様な顔になった。
「それは一体」
「将軍」
荊軻はここで声も顔を引き締めさせた。
「御命を捨てられることは出来ますか」
「命を」
樊於期はそれ
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