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彼岸花
3部分:第三話
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そして殿下にお見せしたいものがあります」
 そう言いながら立ち上がると奥から一つの箱を持って来た。
「それは」
「はい」
 荊軻はその箱を開けた。その中には一振りの小さな剣があった。
「秦王の側には剣を持って近付くことは出来ません。しかしこの剣ならば隠す事が出来ます」
「服の中にですか」
「いえ」
 荊軻はそれには首を横に振った。
「巻物の地図の中に隠そうと考えております。おそらく服も事前に調べられるでしょう」
「確かに。あの男は実に用心深いですからな」
「これならばまさか隠しているとは思いますまい。そしてこれで秦王を刺します」
「成程。それはいいですな」
「はい。ですがまだあります」
「それは?」
「この剣に毒を塗るのです」
「毒を」
「そうです。それならばほんの少しの傷で殺すことが可能です。万が一外されたとしてもかすり傷さえ与えることができればそれで事は成ります」
「素晴らしい、そこまで考えておられるとは」
 丹は荊軻の周到さに思わず感嘆の言葉を漏らした。
「ただ一度試してみるべきかと」
「試す」
「はい、一度死刑囚を使ってお試し下さい」
「わかりました」
 こうして剣に毒が塗られた。これも荊軻の持っていた毒である。それが塗られ死刑囚の身体にかすり傷をつけた。その死刑囚はそれだけで息絶えた。
「これで剣はよろしいですな」
 話を聞いた荊軻は満足そうにそう言った。
「後はこれを隠す地図です」
 共にいた丹に対して言った。
「それなら燕の南の地図がよろしいのでは。丁度秦王が狙っている場所ですし」
「そうですな」
 荊軻はそれに頷いた。
「ではそれでいきましょう」
「はい」
「ですがまだ必要なものがあります」
「財宝と地図の他にもですか」
「はい、秦王が必ず跳び付くものです」
「秦王が」
 丹はそれを聞いて首を傾げた。この二つで充分ではないかと思えた。だが荊軻の考えは違っていた。
「首です」
「首!?」
「そうです、樊於期将軍の首です」
「えっ!」
 丹はそれを聞いて思わず声をあげた。
「樊於期将軍の首ですか」
「はい」
 荊軻は冷酷ともとれる醒めた声で答えた。
「秦王が出て来るとなればこれは必要であると存じます」
「しかし」
 見れば丹の顔は青くなっていた。
「殿下」
 だが荊軻はそれに躊躇することなく言った。
「将軍にどれだけの賞金がかけられているか、ご存知でしょう」
「はい」
 彼は力なく答えた。樊於期には金千斤と一万戸がかけられているのである。破格の懸賞であった。
 そして何よりも秦王は彼を恨み続けていた。虎狼の心を持つとまで言われた彼は樊於期に諫められたことを恨みに思っていた。絶対的な独裁者にとって諫める者は不要であったのだ。
 彼は一族を
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