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彼岸花
2部分:第二話
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ます」
「ではお願いします」
 彼にとっては些細な一言であった。だがそれは田光にとっては極めて重い言葉であった。だがそれを感じているのは田光だけであった。
 彼は荊軻の家に向かった。そして街中の貧しい造りの一軒家に向かった。
「荊軻殿」
 彼は玄関で名を呼んだ。
「おられますかな」
 程無くして玄関の向こうから声がしてきた。
「はい」
 そしてすぐに彼が姿を現わしてきた。
「おお、先生でしたか」
 荊軻は彼の姿を認めると微笑んだ。
「お久し振りです、まあどうぞ」
 そして彼を家の中に招く。
 家の中はこれといって何もなかった。極めて質素である。だが大きく見事な剣が一振りと多くの書物が置かれていた。
「また読書に励んでおられていましたな」
「まあほんの暇潰しです」
 そう言いながらも読まれている書はどれも名著の誉れ高いものであった。
「大したものではございません」
「いやいや」
 田光はそれを否定した。荊軻は書を片付けながら彼に対して言った。
「すぐに酒の用意をしますので」
「いや、今日は酒ではござらぬ」
 田光は彼に言った。
「では何でしょうか」
「実はな」
 田光の顔が深刻なものになった。
「先程私は太子とお話をしておりました」
「太子と」
「はい。これからの燕の行く末について話をしました」
「また厄介な話ですな」
 燕の未来は彼にも見えていた、その時になったら身を隠して難を逃れるつもりであった。
「それで秦についても話をしました」
「秦について」
「はい。あの国をどうするべきかと。太子はいたく悩んでおられました」
「そうでしょうな」
 荊軻は腕を組み考えながら答えた。彼もあの国をどうするべきか考えあぐねていたのだ。
「最早秦の勢力はこの中国を覆わん程にまでなっております、しかしそれに対して我が国はあまりにも脆弱です」
「はい」
 それは覆すことのできない真実であった。秦の力はあまりにも強かった。それに比して燕の力は弱かった。
「太子は秦と燕は決して両立できないと言っておられました」
「それは私も同意です」
 だがその根幹が違った。彼は燕が秦に滅ぼされると考えていたのだ。だがそれは口には出さなかった。
「そうなればどうやってあの国を倒すかです。一番よいのは各国と同盟を結び秦にあたることです」
「それが一番でしょうな」
 しかしそれでも効果は期待できなかった。秦の力はそれ程にまで強くなっていたのだ。
「私が若ければ各国を説き連合を組むのですがもう歳です」
「残念です」
「そこで私は貴方を太子に推挙することにしました」
「私を」
「はい」
 田光は頷いた。
「今燕には貴方程の人材はおりませぬ故。それで貴殿を推挙致しました」
「何と」
 荊軻はそれを聞いて
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