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鐘を鳴らす者が二人いるのは間違っているだろうか
7.絶望の淵に立ったもの
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。ガテラティオまでの道は険しい……商人の行き来に便乗するのが安全だろう。それで、俺の依頼は終了だ」
「そういうことを言っているのではありませんッ!!貴方は……貴方はあの光景を見て何も感じなかったのですか!?」

 アニエスの責めるような言葉がナジットの背中に浴びせられる。
 今、彼女は居場所を奪われ、家族同然の修道女たちを殺され、孤独と不安、そして恐怖に蝕まれている。その不安を和らげてやることもまた、仕事の一部と言えなくもない。それに、ナジットは無感動な男だが、感情のない男でもなかった。

「敢えて言うならば、修道女たちの覚悟の深さならば目に焼き付いている。俺の見た修道女全員が、正教騎士団の援軍が間に合わぬことすら厭わずお前の盾になっていなければ、俺とて依頼をこなせていたか分からぬ」
「……………!!」
「命を賭してまで守りたい者を得る人生は貴重だ。そして、そのために殉じるほどの行動を取れるような高潔なものは、正教内でもそう多くはいまい。――誇れ、お前の家族たちを」
「う、ぐっ……ひっぐ!うぇぇ……うわぁぁぁぁぁぁぁッ!!」

 その涙に込められた意味を、ナジットは知らない。
 ただ、座り込んだままの彼女を背に背負って歩くだけだった。彼女が泣き止むのを待っていては日が沈んでしまう。ここナダラケス砂漠は、悲しみに暮れる巫女にとって優しい場所ではなかった。

「砂漠の水は貴重だ……泣くのは今日だけにしておけ」
「そんなこと……で、できませんっ……ひっぐ!拒否、します………!!」

 ――世界を司る四つのクリスタルのうち、二つが魔の物の手に落ちた。

 その意味を知る者を、アニエスはまだ知らない。
 はるか遠くで一瞬瞬いた光の意味も、まだ知らない。
 その華奢な身に、途方もなく大きな使命が背負わされることになることも――まだ。



 = =


 
 ――貴方、哀しい目をしてるわ。

 ――何っていうか、そう。必ず守ると決めた約束を破ってしまった。

 ――そんな、今にも自責に押し潰されそうな目をしてる。

 ――でも、そんな貴方が諦めてしまったら、辿り着けなくなる未来があるの。

 ――お願い、その未来から目を逸らさないで。

 ――貴方がやり遂げることで、得られる未来なの。

 ――私も、必ず貴方の手助けをするから。

 ――それじゃ、またね。……待ってるから。
 
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