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鐘を鳴らす者が二人いるのは間違っているだろうか
7.絶望の淵に立ったもの
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 全てが、崩れていく。

 それは余りにも突然で――気付いた時には、既に手遅れで。

 家が、風車が、草木が、羊たちが、大地そのものが。

 噴出する極光と共に、大地の穴へと落ちていった。

 家族同然に過ごしたおじさんの悲鳴が、親友の懇願が、隣人の助けを求める声が。

 一切合財を葬り去るように、化物の咢に呑まれる。

 立ち上る光が、僕たちの世界を壊していく――村が、目の前で壊れていく。

 あまりにも儚くて、あまりにも呆気なくて。

 そして大穴は、僕の一番大切なものさえも、奪おうとしていた。

 崩落した大地の底。奈落と呼ぶには明るすぎるその死の亀裂の淵で、僕は今にも落ちようとしている弟の手を必死で握った。腕一本で支える弟の体重は想像以上に重くて、いつのまにか大きくなっていたんだな、と場違いな感想を抱いた。

「う、ぐぅっ……頑張れ、ティル!!」
「離して!このままじゃお兄ちゃんまで――!」

 こんな時まで人の心配なんて、本当に人がいい。
 歯を食いしばりながら震える腕を必死に引き上げようとするが、思うように上がらなかった。
 いつだったか。お前は人が良すぎると言うと、ティルはいつだって「兄さんも人の事は言えない」って笑って、周囲がうんうん頷いた。僕たちは、そんな兄弟だった。
 平凡な日常だったが、それが僕たちの幸せだったんだ。

 父と母は流行り病で亡くなっていたから家族はティルしかいなくて、だからずっと一緒だと思ってた。放牧しながらノルエンデの村で暮らして、老いていくのだろうと信じていた。まさか、それがこんなにも儚く潰える幻想だったなんて、思いもしなかった。そして、認められなかった。

「絶対に離すもんか……!諦めるな、ティル!!」

 こんな不条理があっていいはずがない。こんな事を、神が許していい筈がない。
 僕たちは、ここで静かに、つつましく、穏やかな時を過ぎしていただけなのに。

 だから、認めない。命に代えても護ってみせるって、心の中で決めていた。
 こんな所で、滅茶苦茶な事態に巻き込まれて、何も分からないまま弟まで失うなんて、認めたくなかった。

 唯一の肉親、唯一の兄弟。

 唯一の――宝。

 でも、別れはとても呆気なくて。


 一際大きな揺れが起きた。

 元々不安定な足場で、しかも握力も限界に近づいていた。
 
 だから――

 だから――

「うわあああああああああああああああああああああああッ!!!」

 声ひとつ出なかった。
 僕は、悲鳴を上げて大穴に落ちていく弟を――どんなに手を伸ばしても決して届かない場所へ遠ざかっていく弟を、呆然と見ている事しか出来なかった。
 心の中で、決定的な何かが壊れた音が
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