第147話 黄忠
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いことを。
「過ぎたことだ。この私の生命を狙ったことは水に流す。ただ、そなたをこのまま無罪放免にできん」
「覚悟はできております。どうか娘・璃々の命だけはお助けください」
黄忠は顔を上げ正宗に泣き縋った。彼女には正宗の慈悲に縋る他無かった。今のままでは大逆人の娘となる。まともな人生どころか命すらないかもしれない。
「そなたのことも罪には問わん。だが、その代償にお前には蔡徳珪を討伐する軍に参加してもらう」
正宗は厳しい表情で黄忠に有無を言わせず告げた。黄忠は正宗の申し出に悩んだ表情をしていた。主君・劉表への義理立てだろう。義妹とはいえ、劉表の妹・蔡瑁を討伐する軍に参加する。それは劉表への裏切りと言えた。だが、正宗にも返せないほどの恩がある。正宗の立場上、黄忠を無罪放免などできないことは彼女にも十分に分かっていた。だから余計に黄忠は苦悩しているようだった。その様子を見て正宗は物思い耽っていたがしばらくして口を開いた。
「この話は忘れてくれ」
正宗は目を瞑り黄忠に告げると直ぐに両目を開けた。
「黄漢升、そなた達母娘の命を救う。だが名と故郷を捨ててもらう。よいな?」
正宗は黄忠にそう告げた。黄忠は正宗の申し出に驚いていた。
「娘は私が救い出す。その後、お前を処刑したとして触れを出す。出奔先は私が用意する」
「何故でございますか? どうしてそこまで」
正宗に黄忠は質問した。その表情は正宗に何がしかの疑心を抱いているようだった。
「下らん謀略のために子供が犠牲になるなど馬鹿げているからだ。お前の娘はまだ幼かろう。まだ母親が必要だ。それにそなたには情状を酌量する余地がある。天からの慈悲と想い受け取ってくれ」
正宗は感傷に耽るような視線で語りだした。黄忠は正宗のことを黙って凝視していた。
「清河王、蔡徳珪を討伐する軍に参加させていただきます」
黄忠は正宗を真っ直ぐに見つめていた。彼女の表情からは迷いが晴れていた。
「荊州牧への義理は良いのか?」
正宗は黄忠に確認するよう問う。
「荊州牧への恩義はございます。ですが、清河王への恩義もおいそれと返せるものではございません。清河王は私達母娘のために自ら泥を被り、その手を血で汚さそうとなさっています。私達だけが安寧を得ることは忍びなくございます。荊州牧へは蔡徳珪を討伐した後にお詫びを申し上げるつもりです。微力ながら、あなた様のお力にならせてください」
黄忠は正宗のことを見つめながら真摯な表情で答えた。その表情から彼女が偽りや保身のために言っているのでないことは周囲の者達にも分かった。
「相分かった」
正宗は彼女の言葉に答えるように力強く頷いた。
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