第147話 黄忠
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女は正宗の顔を見て落胆し表情を隠すように視線を地面に向けた。
「黄漢升で相違ないな」
正宗は彼女のことを凝視し淡々と尋ねた。彼女は正宗の言葉には何も答えず沈黙していた。彼は沈黙を肯定と捉えた。正宗は元々彼女の顔を知っていたが、初対面の自分が彼女の顔を知っていては不自然なので敢えて確認しているように装ったのだろう。
「そなたの傷を治療し命を救った私に礼の一つも言っても良いのではないか?」
正宗は彼女の態度に怒る様子もなく、ただ彼女に問いかけた。
「清河王の寛大な対応に感謝いたします」
彼女は正宗の言葉に一瞬逡巡したが顔を伏せたまま礼を述べた。その態度から正宗を警戒していることは伺いしれた。彼女も正宗が情けから自分の命を救ったとは思っていないのだろう。正宗の狙いが彼女に正宗暗殺を指示した人物を知りたいことは容易に思いつくからだ。
「荊州牧の配下である、そなたが私の命を狙った。命じたのは荊州牧か?」
正宗は彼女を観察するように詰問した。彼は劉表が今回の件に関わった可能性が低いと考えていながらも質問した。
「荊州牧の命ではございません。私の一存で清河王を襲撃いたしました」
黄忠は正宗の問いに即座に返答した。その態度から黄忠が劉表への忠義心があることがわかる。正宗もそう感じたのか黙って彼女のことを見つめた。
「そなたの一存とな?」
「はい」
黄忠は小さい声ながらも意思の篭った声音で正宗に答えた。彼女は罪を全て被るつもりなのが分かった。
「この私を殺そうとした理由を聞かせてもらえるか?」
黄忠は沈黙した。
「言えぬのか?」
「いえ」
「では申してみよ」
正宗は威厳に満ちた声音で黄忠に言った。彼女は正宗の問い答えず押し黙ってしまった。
「私がそなたを撃退した後、連行されるそなたを見た民が私に必死に助命を願い出てきた。力無き民が自らそなたを守るために直訴した。それだけでそなたの人柄がどうであるかわかる。そなたが無為に人の命を狙う者とは思えない」
正宗は黄忠を諭すように語りかけた。彼女は正宗の言葉を黙ってききながら悲痛な表情をしていた。民が自分のために直訴をしたことえの想いだろうか。それとも人質となっている娘への想いだろうか。
正宗は黄忠が語りだすのを待ったが沈黙を通していた。黄忠が娘を人質に取られており、彼女の置かれている状況を彼は既に把握していた。だが正宗は確認のために彼女に質問した。
「蔡徳珪の差し金だな?」
正宗は徐ろに黄忠に尋ねた。黄忠は「蔡徳珪」という単語に一瞬体を強ばらせた。それを正宗は見逃さなかった。
「いいえ、違います! 私の一存でございます!」
黄忠は声を高くして正宗に主張した。正宗は黄忠をただ
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