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鐘を鳴らす者が二人いるのは間違っているだろうか
5.君はもっと強くなる
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頭に送り込めない。

「―――………」

 なのに、どうしてだろうか。

 脳裏に、一人の少女の影が映った。
 凛々しい表情に、癖のある跳ねた前髪。
 腰に刀を携え、笑顔が似合い、腰に剣を差した――その少女を想った途端、身体は動いていた。

「吹き飛ばされた……おかげで、距離が……開いたな。じ、実にいい距離だ……ッ」

 俺の身体は限界に近い筈なのに、身体は思うとおりに動き、槍を構えていた。
 苦しくて倒れそうな筈なのに、腕にはむしろ今まで以上の力が漲る。

 こんな所で――『彼女』にも出会わぬままリングアベルという男の冒険は終わるのか?
 否、それは断じて否だ。

 まるで逆境を背に燃える男子(おのこ)の本懐を遂げているように、その切先がミノタウロスに突き付けられる。この程度で殺されてなるものか。もう逃げるのは難しいが、ここから奴を倒すことくらいはやれる。やってみせる。

 不意に、できれば剣で戦いたいと思った。考えてみれば最初は剣を握っていたのだから、元々は剣士だったことを思い出したのかもしれない。この戦いが終わったら奮発していい剣を買おうと決めた。

『ヴヴアアアアアアアアァァァァッ!!!』
「吠えるなよ、牛頭……頭に響くだろ?こちとら体中痛いんだ……!!」
「リングアベル、さん……僕の所為で、こんなことに……!」

 ベルが今にも泣きそうな顔でこちらを見つめている。
 せっかく終わったら飯でも奢らせようと息巻いていたのに、その顔を見ると許してやってもいい気がした。ゆっくりと近づいてくるミノタウロスから目を離さず、リングアベルはニヒルに笑う。

「そんな何もかも終わったような顔を……するなよ。人生は、いつだって一発逆転のチャンスだぞ……?」

 理屈は分からないが、きっと今の自分はさっきまでより強くなっている。
 それに、投擲に必要な距離も測らずして開いている。
 なら――やれる。

「今から、俺の本気を見せてやる!しっかりその目に焼き付けておけよ、ベル……!!」

 全身に漲る力を、槍を握る腕一本に全て集中させるように腕を引き絞り、それを支える足腰を固定するようにがっちり地面に踏みしめる。この一撃に、正真正銘今のリングアベルという男が持つ戦闘能力の全てを注ぎ込む。

「この一撃はヘビィだぞ……!――『ホライズン』ッ!!貫けえぇぇぇぇぇぇぇッ!!!」

 血液が沸騰するほどの熱気と、命を削るような咆哮を上げながら、リングアベルは槍を投擲した。
 槍は躱す暇も与えずにミノタウロスに迫り――その巨大な腕を肩諸共抉り飛ばした。

『ヴォオアアアアアアアアアアアアアアッ!?!?』

 情けない悲鳴を上げながら千切れとんだ肩を必死で掴もうとする醜態が、とても滑稽に見えた。
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