第五十五話 最後の戦いその二
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その花達の香りもした、幻術だというのに。
「感じてるぜ」
「そう、耳にも肌にもね」
「五感に仕掛けるものなんだな」
「それが私の幻術だよ」
ただ目に仕掛ける普通の幻術とは違うというのだ、薊も他の少女達もこのことを感じ取っていた。それもはっきりと。
ここでだ、伯爵は。
その手を動かそうとした、だがその彼に。
薊は微笑んでだ、こう言った。
「いいさ」
「いいとは」
「どうせこれで最後だしな」
その戦いがというのだ。
「余興としていいさ」
「そう言うのだね」
「こんなので惑わされていたらな」
それこそともだ、薊は口元に笑みを浮かべて言ってみせた。
「最初から駄目さ」
「いいのかな、この幻術は」
「ああ、相当だよな」
「先程のやり取りの通り目だけに仕掛けるものじゃない」
「鼻にも耳にもくるな」
花吹雪の音までしている、そして。
肌にもだ、その花びら達が触れる感覚がある。怪人達は見えているがその感覚の中に埋もれてしまっている。
その中でだ、薊は言うのだ。
「最後の戦いの演出には丁渡いいじゃないか」
「では」
「ああ、戦うさ」
幻術をこのままにして、というのだ。
「あたし達の最後の戦いを見てくれよ」
「わかったよ、ではね」
伯爵は少女達の心を受け取った、そのうえで。
微笑んで頷いてだ、こう言った。
「ここで君達の最後の戦いを見させてもらうよ」
「それじゃあな」
「この戦いが終われば」
「後は普通にな」
それこそというのだ。
「女の子として暮らすよ」
「そうしてくれるんだね」
「正直戦いは嫌いなんだよ」
このことは薊だけではない、他の少女達もだ。八人の少女達全てが戦いを好まず静かに幸せに暮らすことを望んでいるのだ。
「これで終わらせるさ」
「そうするんだね」
「終わったら皆でピクニックに行ってな」
裕香、智和との約束も言葉に出した。
「皆で楽しんで。部活もしてな」
「部活もだね」
「高校の生活を楽しんで」
そしてだった。
「それからもな」
「君はお母さんになるんだったね」
「なるよ、奥さんにもなってね」
「そうだね、ではね」
「行って来るな」
こう言ってだ、そのうえでだった。
薊は一歩前に出た、その相手は。
ティラノサウルスの怪人だった、怪人は薊を見つつその禍々しいまでの牙が生え揃った口で言った。
「俺達が最後でだ」
「ああ、この戦いもな」
「貴様等は死ぬ」
「そう言うんだな」
「俺は自分が誰かは知らないがだ」
それでもだというのだ。
「その力は知っている」
「恐竜の力は、だよな」
「全身に溢れている」
その力がというのだ。
「これだけの力は他にはない」
「知ってるさ、暴君竜だよな」
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