第二百十三話 徳川の宴その十五
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それでだ、こうも言うのだった。
「今川家が桶狭間で敗れた時じゃ」
「あの時は義元公も氏真公も織田家に囚われ駿河等は完全に空き地になっていました」
「それで素早く北条、徳川とも話をつけ駿河と遠江の東を手に入れたが」
「その時もですな」
「若し今川家があれば」
あの時の様にいなくなった状況でなかったら、というのだ。
「太郎はよしと思わなかったな」
「それが厄介なことになっていたやも知れませぬな」
「だからあの時は幸いであった」
「駿河を誰の気兼ねもなく手に入れられたことは」
「太郎の奥も今川の娘、それが大義名分にもなった」
もっと言えば信玄の姉が今川義元の妻だ、それで氏真は信玄の甥にもなるのだ。この血縁を御旗として信玄は駿河をただ兵を進めただけで手に入れたのだ。
この時のこともだ、信玄は言ったのだ。
「太郎にとっても武田にとってもよかった」
「そうですな、まことに」
「やはり太郎が武田の跡継ぎじゃ」
「そして勝頼様は」
「諏訪家じゃ」
この家の、というのだ。
「跡を継ぐ」
「そうなりますな」
「思わぬことじゃ、桶狭間は我等にとってもよき流れになり」
そして、とも言う信玄だった。
「今の我等にもつながっておる」
「思えばそれも不思議なことですな」
「そうじゃな、そして今はここにおる」
「この安土に」
「それもまた不思議なことじゃな」
「全くですな」
「しかし。思えば太郎とは何もなくてよかった」
信玄はこのことは素直に喜んでいた。
「武田はこれまで父子が争ってきた」
「はい」
このことは信玄と彼の父である信虎とのことだけではない、その前からだ。だがそれの因縁もというのだ。
「それが切れたこともな」
「よいことですな」
「そうじゃ、では我等はな」
「天下の中において」
「果たすべきことをしようぞ」
こう言ってなのだった、信玄は今は家康を見ようというのだった。彼が天下の執権になれる程の器なのかどうかを。
第二百十三話 完
2015・1・14
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