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戦国異伝
第二百十三話 徳川の宴その十四

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「わしはこれから天下の政とじゃ」
「甲斐の政にですな」
「全てを捧げる」
 天下ではなく、というのだ。
「そのつもりじゃ」
「そうされるべきかと」
「戦の世は終わる」 
 信玄は遠くも見た。
「さすればな」
「その後に為すべきことは」
「政じゃ、甲斐の国をどんどん豊かにするぞ」
「これまでは小さな国でしたが」 
 それこそ信玄が若い頃はだ、甲斐は非常に貧しかった。
 だが信玄はその甲斐を豊かにした、そしてさらになのだ。
「その甲斐も」
「堤も築いた、そしてな」
「さらにですな」
「田も増やし町を整え。そして」
「さらにですか」
「蒲萄もじゃ」
 この果実もというのだ。
「よりじゃ」
「植えられて」
「あれからもな」
「実りを得ますか」
「他にも既に色々植えておるしな」
 それに加えてというのだ。
「蒲萄もじゃ」
「そうされますか」
「甲斐も違う国にする」
 貧しい国ではなく、だ。
「よりな」
「豊かにされて」
「よい国にしていくわ」
「そしてそれは他の国もですな」
「うむ、泰平になればな」
 甲斐だけでなく、というのだ。
「天下の全てがじゃ」
「豊かになりますな」
「よいことじゃ」
 そのこと自体がというのだ。
「まことにな」
「ですな、では明日は」
「徳川殿じゃ」
 また家康の宴について話した信玄だった。
「あの御仁を見ようぞ、そしてな」
「そしてとは」
「太郎にもよく言っておこう」
「義信様にもですか」
「太郎がわしの跡を継ぐ」
 武田家の家督、それをというのだ。
「だからな、しかし太郎はのう」
「少し、ですか」
「生真面目で潔癖過ぎる」
「曲がったことがお嫌いですな」
「それ自体はよいが」
「家の主ともなりますと」
「清濁を知らねばならぬからのう」
 義信は清だけしか認めないというのだ、それが信玄にとっての懸念だった。
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