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とんだ花嫁
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第一章

                       とんだ花嫁
 フランスブルボン王朝の開祖であるアンリ四世は独特な人物だった。まず彼はいつも大蒜の匂いを身体中から放っていたのである。
「陛下、またですか」
「また大蒜をですか」
「美味いな、あれは」
 顔を顰めさせる家臣達に対して豪快な笑顔と共に語るのだった。
「やはりな。大蒜はいい」
「しかし匂いが」
「毎食食べられているではないですか」
「余にとってはパンと同じだ」
 彼は平然として話すのだった。
「大蒜はな」
「何故そこまで召し上がられるのですか?」
「匂いがするというのに」
「精がつくからだ」
 だからだというのである。
「それでだ」
「それで、ですか」
「大蒜がお好きなのですね」
「大蒜を食べていると元気が出る」
 王はさらに話す。
「余は大蒜を食べ続けるぞ」
「はあ、そうですか」
「ずっとですか」
 とにかく大蒜臭かった。そのうえ非常に女好きだった。愛人が何人もいてそれでいつもそのうちの一人が妊娠している有様だった。
 それについては。こんなことを言うのだった。
「次は男か女か」
「今度生まれるお子様がどちらか、ですか」
「どちらだろうな」
 こんな話を家臣に対してするのである。よく言えば屈託がなく悪く言えば品がない。随分とガラッパチな態度の王様である。
「本当に楽しみだ」
「どちらを望まれますか?」
 家臣の一人が尋ねた。
「それでは」
「どちらでも結構だ」
 また笑いながら話す王だった。
「男でも女でもな」
「それは何故ですか?」
「男なら貴族を増やせる」
 愛人の子だからだ。嫡出かそうでないかは欧州ではかなり厳しい。
「そして女ならばだ」
「その場合は?」
「婚姻に使えるし花が増える」
「花が、ですか」
「どちらにしろいいことだ。とにかく子供は多い方がいい」
 屈託のない、悪く言えば王らしくない下品な笑いでの言葉だ。
「だからだ」
「そういうことなのですね」
「左様、さてどちらかどうか」
 あらためて家臣に提案してきた。
「賭けるか?」
「いえ、それは」
 生真面目な家臣はその申し出は断った。こんな王だった。
 その王は今は王妃がいなかった。愛人は多いが王妃は今のところいなかった。そのことが問題になっていたのである。
 それでだ。家臣達もこう勧めるのだった。
「やはり王妃をお迎え下さい」
「王としての対面がありますので」
「そうだな」
 王も彼等の言葉に素直に頷いた。
「王がいれば王妃がいるのは当然だな」
「その通りです」
「ですからここは」
「わかっている」
 ここでも静かに頷く王だった。

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