踏み外した歴史編
第3話 ただ一人の求め方
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ーだし、ミッチだって仲間だし。と、とりあえずよろしく。貴虎」
紘汰が手を差し出した。
下の名前で呼び捨てにされるなどいつ以来か。貴虎は少しの間だけ面食らったが、すぐ破顔して紘汰の手を握り返した。
「ああ。よろしく。葛葉」
握手をほどくと、貴虎は穏やかな面を引き締め、光実と紘汰を見据えた。
「早速で申し訳ないが、お前たちには辛いことを話さねばならない。高司舞君のことで」
光実は紘汰と共に、貴虎が話す舞の顛末を聞いて棒立ちになった。
――舞の“始まりの女”化と、消失。
――知恵の実。世界を塗り潰す力。
「あたしも、貴虎さんも、舞に声が届かなかった。あたしたちじゃ、っく、だめだった……だめだったの……っ」
「舞!」
紘汰がガレージの中心に進み出た。
「いるなら返事してくれ! 俺たち、誰も世界を滅ぼしたいとか思ってないから! 何とかするから!」
返るのは鋼のように重い沈黙だけ。
(舞さんの一番特別な紘汰さんにも応えないんだ。僕なんかが呼んだって、応えてくれるわけない。分かってる。分かってるけど、でも!)
求めるただ一人のためにその他大勢を犠牲にしてはいけない。
タワーでの戦いで、裕也は言葉にせずその理念を光実に教えてくれた。
(ごめんなさい、裕也さん。裕也さんがせっかく教えてくれたこと、今から破ります)
「舞さん」
サガラは言ったという。「お前が必要だと訴えてやれ」と。
ならば呉島光実は誰よりもそこを的確に突く言葉を持っている。
「たくさんの、酷いことをしました。あなたにもたくさん、怖い思いをさせました。最初は確かにあなたや紘汰さんやみんなのためを思ってたはずなのに。何もかもにしがみつこうとして、僕は悪い子に変わっていきました。でも、一つだけ、ずっと変わらなかった気持ちが、たった一つだけあるんです」
光実は強く強くシャツの胸元を握り締めた。
「あなたが好きです! 知恵の実なんか要らない。僕は舞さんが笑っていてくれればそれだけでいい!」
――空気が、微かに揺らいだ。
「 ミッチ…… 」
舞が、現れた。
ラチナブロンドに赤と黒のオッドアイ、白い祭服という、普段とはかけ離れた姿。体は透けていたが、確かに、光実の前に存在していた。
「舞さ……っ!」
光実が呼ぶより早く、舞はふわりと浮かんで光実に迫り、光実の頬に唇を寄せた。
「 うれしいよ あたしにそんなこと言ったの ミッチが初めて 本当にうれしいの できるなら このままミッチに応えて戻りたいくらい でも それはだめなの ミッチに世界を滅ぼすなんて あたし 絶対
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