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鐘を鳴らす者が二人いるのは間違っているだろうか
3.地上の兎、迷宮へ
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いているが、既に呆然とするだけの無力な少女はそこにはいなかった。

「皆………そう、そうですね。巫女オリヴィアにクリスタルの加護があらんことを………!」

 アニエスが祈祷する。それは儀礼に則ったクリスタルへの祈祷ではなく、一般信徒がするような簡素な祈りでしかない。だが、その祈りに、神殿奥の風のクリスタルが一瞬瞬きを増した。修道女たちが集合して一斉に祈りを奉げてやっとその変化がみられるクリスタルの輝きを、たった一瞬の祈りで輝かせた。

 ――これなのだ。アニエスが巫女に選ばれた理由は。

 術に長け、魔法や結界術など学問を評価された水の巫女。
 他宗教の民とも打ち明けるような人間的魅力に溢れた火の巫女。
 文化的博識と、民を説く力強いカリスマを振るう土の巫女。
 その三人に対し、アニエスの選ばれた理由は非常にシンプルだ。

 目に見えない筈の祈りが持つ量、純度、規模が圧倒的に大きい。

 ひとつ祈りを奉げる度に世界の全てを慮っているかのような、圧倒的な器と無償の愛。

 だからこそ、修道女たちは常に一つの覚悟を持って行動している。
 正教の未来を照らす若き希望の光を――その命に代えても必ず守ると。

 その様子を陰から覗いていた一人の修道女が、後ろを振り返って一人の男に話しかける。
 男人禁制である筈の神殿内に特別に入る許可を与えた、一人の剣士に。

「傭兵イクマ・ナジット……もし我等でアニエス様を守りきれない時は、貴方が必ず我等の希望を守り通してください。報酬は正教が、貴方の望む限りを支払いましょう」
「……俺には主義も主張も関係ない。金を出すならその分の働きはしよう。お前との契約、承った……」

 漆黒のローブに身を包んだ長身の男は、懐の剣を指でなぞりながらそう答えた。



 = =



 「Dの日記帳」。
 リングアベルの持つ日記を、ヘスティアはそう呼んでいる。表紙に装飾された銀色の「D」がその由来だ。
 リングアベルに一度見せてもらったが、なんでもそれによるとヘスティア・ファミリアにはこれから更にファミリアになってくれる人や協力者が訪れるようだった。他は主観的すぎて意味を読み取れない事が多かったが、リングアベルは「好きなだけ読んでいい」と日記を預けてくれた。
 
 この日記はどこで買ったのだろうか――それが分かればリングアベルの記憶の手がかりになるかと思い、アイテム鑑定士や物流に関わる証人に聞いてみたりもしたが、恐らくオーダーメイド品だろうということで詳しい事は分からなかった。上質な品であることは間違いないのだが、少なくともこの町でこのような装飾は流行りでない。結局不明のままだ。
 そして、その過程で1つ気になることが発覚した。

「――継ぎ目がある?」
「ああ。
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