Identity
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「 ・・・うん。それってあんまり意味ないよね 」
今日も電車に揺られ、会社に到着したのが3時間前。昼休みまであと30分の業務時間中。
教育担当の中堅社員の話を聞いていた時の話。
「 これをやる意味っていうのをもう一度考えてみようか。君たちはコレだけやっていれば大丈夫だと思い込んでいるけど、実際の業務ではこんなことないからね?・・・今は研修中だから楽しくやってくれればいいんだけどね 」
確かにその通りである。
自分らしく働きたいと考えている人間は多いが、実際にその通りに生きている人間なんてこの社会には一握りしかいないのだろう。ほとんどの大人が自分の理想を早々に放棄し、夢を捨て、目の前の仕事のみに集中するようになっていく。
新入社員だった頃の目標などは、世間を知らない若造の戯言であると本人も分かっているのだ。それでも頑張るために、日々を全力で生きていくために、人生の目標-夢を持つ。社会とはどんなものかという物差しを持ち合わせない若者達にとって、その目標は一生涯守っていく程のものではない。ただ今を生きるために、進む方向を定めるために暫定的に決めているだけに過ぎないのだ。
その目標を嘲笑う大人も居るが、僕はそんな人間にはなりたくない。
尊敬できる面があるからといって、完璧な人間であるわけが無いのだ。そのことに気付いて、自分の判断の身を任せることが出来るか。もしくは、自分よりキャリアのある人間の意見を正として生きていくのか。選ぶのは僕自身だ。
「 わかりました 」
言いたいこと(文句を除く)はたくさんあるが、今は口に出すタイミングではないはずだ。経験に裏づけされた確固たる自信が持てるまでは言い返せないし言い返さない。
だから僕は静かに心に誓う。
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「 どうしよう 」
帰りの電車の中で一人呟くが、その声は誰の耳にも届くことは無い。
そんなこんなで電車は僕の家の最寄り駅に到着した。電車から降り、ホームの階段を人ごみに流されながら上っていく。昨日の出来事が頭の片隅をかすめ、ふと階段下に目を向けるが、そこには誰も居ない。
昨日の非日常を思い出す。いつもと違う時間、瞬間。
「 戻らないんですか? 」
昨日は部屋にいたあのお方だが、今日は駅までお迎えに来てくれていたようだ。
「 昨日のことを少し思い出していました 」
「 ああ、そうなんですね 」
そこで僕は一呼吸置く。駅から僕の家まではたったの100m程しかないので、ゆっくり歩いてもすぐに到着してしまう。
「 少し遠回りしてもいいですか 」
「 どうぞ 」
女神様から同意を頂き、二人で歩き出す。
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