【パーガトリウム・フレイム】
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の事態を引き起こしたと思われる人物を導き出した。
魔法の教養が豊富で、かつデイドラに接触できる者。
ミネロヴァの他に思い当たる者はいなかった。
「くっ、勝手に…………だが、それはいい。それよりも、この魔法は何なんだ…………」
勝手に眷族を弄られていることに頭に血を昇らせたが、それは一瞬で、すぐに怒りを収めた。
ミネロヴァの勝手な行動に対する怒りよりも、その魔法の内容に対する不安の方がテュールの心を占めていたからだ。
魔法はエルフやダークエルフ、精霊などの魔法種族が先天的に持つ先天系と『神の恩恵』を媒介にして芽吹く可能性のある後天系の二つ大別することができる。
先天系は古よりの魔法種族はその潜在的長所から修行・儀式による魔法の早期習得が見込め、属性には偏りが見られる分、総じて強力かつ規模の高い効果が多い。
そして、後天系は自己実現である。何事に興味を示し、認め、憎み、憧れ、嘆き、崇め、誓い、渇望するか、そして【経験値】に左右され、規則性は皆無、無限の岐路がある。
つまり、
「このような魔法が発現したということは――」
いまだデイドラの心が深く、復讐の念に苛まれているということだった。
「デイドラ……汝はいつまでそうしておるつもりじゃ……」
【神聖文字】で埋め尽くされているデイドラの背にそっと手をのせ、誰も聞くことのない今日二度目となる台詞を計ったように吹き込んだ隙間風がさらう。
デイドラはまるで火だ、とテュールは一人思った。
輪郭が朧げで儚く、手を近づけるだけで、その手を、心とともに、焦がす。
「これほどに近くにおるというのに、触れることすら叶わぬ」
まさに火、いや鏡に写った鬼火のようじゃ、とテュールはうっすらと目元を濡らし独り言ちた。
◆
「ただいま、戻りました」
と、扉を開けてノエルが本拠に入った。
「って、もう寝ていましたか」
【テュール・ファミリア】の本拠に帰ってきたノエルの目に入ったのはデイドラに寄り添うように眠るテュールの姿だった。
その光景は急に心細くなった妹が寝ている兄の毛布にこっそり潜り込んでいるように見え、ノエルは口元が綻ぶのを抑えられなかった。
ノエルは音を立てないように注意を払いながら二人に近づくと、
「おやすみ」
と、呟き、ベッドの横にある急な階段を上がっていった。
しかし、ノエルは気付いていなかった――テュールの目元にが濡れていることに。
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