2部分:第二章
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第二章
「はるばるここまで来られたのですから」
「そう仰って頂けるのですか」
「それが何か」
「いえ」
彼女は義経の妻だ。だからだ。
その謀反の罪に連座させられるのではないかと内心覚悟していたのだ。しかしだった。
政子はその御前に微笑みを向けたままだ。言葉をかけてきたのだ。御前はこのことに驚きさえ感じていたのだ。
だが政子の微笑みは変わらずだ。また彼女に言ったのである。
「屋敷も人も用意してあります。ですから」
「そこで、ですか」
「ゆっくりとして下さい」
「畏まりました、それでは」
驚きを隠せないままだ。御前は政子の言葉に応え頭を垂れた。そのうえでだ。
彼女は用意されたその屋敷に案内され頼朝達の前を後にした。その彼女の背を見つつだ。頼朝は眉を顰めさせてだ。傍らにいる政子に対して問うた。
「どういうことだ」
「何か?」
「だからだ。あの者に対することだ」
静御前に対する態度についてであることは言うまでもない。
「何故あそこまで優しくする」
「はるばるこの鎌倉まで来られたので」
それでだとだ。政子はそっけなく頼朝に答えた。
「だからです」
「それはわかる。しかしだ」
「いいではありませんか。あの方に罪はありません。それに」
「それに。何だ」
「いえ」
ここから先は言わない政子だった。あえてだ、
そうしてからだ、。あらためて頼朝に言ったのである。
「とにかくです。静殿はです」
「何もするなというのか」
「その必要はないではありませんか」
これが政子の言葉だった。
「そうではありませんか」
「いや、しかしだ」
「しかしも何もありません。無用なことは為されないことです」
「御主はどうも甘い」
「そうでしょうか」
「この世は何時誰が裏切るかわからぬというのに」
頼朝はその猜疑心を向けた。彼はこれまで生きた中でだ。
そうしたものを見てきたのだ。だからこその言葉だった。
「それで何故そこまでするのだ」
「裏切る方とそうでない方を見極めるのも必要だと思いますが」
「人はわからぬ」
苦々しい顔になって返す頼朝だった。
「何時だ。父上の様にだ」
「ですがそれもです」
「裏切る者だったからだというのか」
「そうでない方もおられます」
「ふん、そんな筈がない」
頼朝は政子のその言葉を頭から否定した。そしてだ。
そのうえでだ。こうも言うのだった。
「あの者もだ。わしをだ」
「果たしてそうでしょうか」
「そうに決まっている。人は誰も同じだ」
「しかし私は違いますが」
政子の言葉に強いものが宿っていた。そしてだ。
その言葉をさらに強くさせてだ。彼女は言ったのである。
「それは」
「それはそうだが」
「では宜しいですね」
夫
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