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猫の憂鬱
第4章
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木島達が目の前に現れた時の雪村は、穏やかな顔で猫を撫でていた。観念したというより、あれだけ判り易く証拠を残したのに何故もっと早く判らなかったの?と挑発に近い笑顔だった。
「もっと早く、気付くかと思った。」
「タキガワコウジさん、青山涼子殺人補助の疑いがあります、署迄来て頂けますね?」
「遅過ぎるよ、刑事さん。」
猫を下ろした雪村…タキガワコウジは寂しそうな顔で、自分を見上げる猫の頭を撫でた。
ネェ、と鳴いた猫にタキガワコウジは涙を落とした。
「此の子、如何なっちゃうんだろう…」
其れだけタキガワは云い、車に乗った。加納の腕に抱かれる猫に、木島も同じ事を思った。


*****


事の始まりは十年前、青山涼子の父、葵早雲の死から始まった。莫大な遺産を相続した青山涼子は、けれど全く金に興味は無く、三歳になったばかりの子供を放置し絵を描く事に明け暮れていた。夫であるタキガワセイジは、そんな妻に、愛想尽かしていた。
生まれた子供は我が子じゃない。
其れだけでも腹立たしいのに、青山涼子はあろう事か夫が邪険にしないのを良い事に息子の面倒を夫に丸投げ、カンバスに向き続けた、最愛の父親の死を忘れるように。
息子が懐いていたのが幸運だった、パパと戯れる子供を蔑ろにする程、セイジは薄情では無かった。青山涼子とは正反対だった。
青山涼子は、薄情な人間だった。故に友人が居らず、出来ても其の性格で離れていった。
学生時代からそうで、友達が離れて行く程猫に執着した。
良いもん、此の子達が居たら…。
高校に進学はしたが結局中退し、引き篭もって只管絵を描いた、描き続け、十七歳の時、飛び出すようにドイツに渡った。
ドイツに行けば変われる、そう思った、絵を描き始めた理由も、美術書籍で見たドイツの田園からだった。
売れなくて良い、ドイツで絵を描こう、そしたら私は変われる。
現実は酷かった、此処迄するかという位差別された。なのに、ドイツ語も儘ならない少女を男達は重宝した。
其の男達は、金を払うのは肉体では無く絵だ、という風に涼子の絵を持っていった、其の内の一人に、ギャラリーを持つ男が居た。其処に置かれた涼子の絵は、ぼちぼちだが其の男のお陰で売れ始めた。
セイジと出会ったのは涼子が二十一歳の時で、こんな事やめな、と救ってくれた。
絵なら僕が売るから、君は絵を描いていれば良いよ。
此処で変われていたら良かった、良かったのに、大人の欲望に浸かり切った涼子は出来なかった。
絵が売れても、其れは私を求めてるんじゃない、絵が、求められてるだけ。
涼子の男遊びは止まらなかった、セイジは其れでも涼子を捨てなかった。今此処で捨てたら、画家になる前に人として駄目になる、そう思い、涼子が二十五歳の時結婚した。
もう其の時期には中々に売れる画家だった、路上で描
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