第4章
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す。きな粉ちゃんは、きちんと、貴方を認識します。猫は賢い生き物です、危害を加えないと判れば、貴方を認識します。賢く、従順なんです、猫は。きな粉ちゃんは、貴方を心底愛して居ます。
酸素マスクを小さな口に付け、白濁する目を動かしながら、猫は必死にコウジを探した。
――ネェ……
――きな粉、きな粉、パパだよ、判る?
――ネェ、パパぁ…
――判る?判る?きな粉、パパの匂いと声…
――ネェ…
――だからパパ云ったろ?オイタも大概にしろよって…
――パパぁ?
――御免な、きな粉、守ってやれなくて。熱かったよな…
――パパぁ…
きな粉ね、パパ大好き。
そう、酸素マスクの向こうから笑ってくれた気がした。猫以上に視界が霞んだ。
――パパぁ…
――きな粉、覚えて、右で君を抱えて、左手で撫でてくれる人が、パパだよ。パパはこうやって君を守るから。
乱暴だったのは確か、撫でるというより、叩いていたが、猫はコウジを認識した。
――覚えて、きな粉、こうやって抱くのが、パパだよ。
多分、歩いて帰ったのだろう、リビングのソファで憔悴する涼子を見てやっと、自分が自宅に居るのが判った。
――貴方は、誰…?
頬を腫らす涼子は聞いた。
――誰なの?貴方は誰なの……!
――御免…
シャワーを浴びせる為抱えたが涼子は暴れ、殴られた。生臭い臭いが湯気と共に上がり、吐き気がした。
――病院、行こうか……
――嫌よ…
――君はきな粉か…
タブの中で膝を抱える涼子の身体を洗いながら、今迄の事を全て話した。自分はコウジである事、ドイツで雪村凛太朗を轢き殺し、セイジの示唆で雪村凛太朗として生きて来た、現在タキガワコウジを名乗るのはセイジ。
――なんでそんな事するの…?
――其れは、僕が?兄貴が?
――セイジさんよ…、なんで息子を殺したの…
――君の、財産…、蒼早雲の、遺産…
馬鹿ね。
顔を上げた涼子は泣いた儘笑い、云えば全部上げたのに、と折れ曲がる鼻を鳴らした。
――全部使って良いって、云ったじゃない…、馬鹿ね……
そんな事の為に自分を殺そうとし、誤食で息子を殺したのか。
馬鹿みたい、本当、馬鹿みたい……。
涼子の心は、へし折られた指のように折れ、心療内科の世話になった。然し、其れも直ぐに通わなくなった。
見事にセイジの子を妊娠したのだ。妊婦に出せる薬は無いと云われ、涼子の不安は腹と同じに膨らんだ。
――ねえ、凛太朗さん。
――何?
私を殺して。
頬は窶れ、肉という肉が涼子の身体から失せて居たのに、腹だけは突き出ていた。其れが不気味だった。
――やだよ。
――そっか。
笑った涼子は其の儘階段に倒れ込んだ、腹を下に倒れ、人形のように
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