第4章
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!きな粉、パパだよ!判る!?パパの声判る!?キナ様!
――ネェ……
――きな粉…、きな粉…、大丈夫、大丈夫パパが付いてるから、ママは一寸手が離せないのね…?病院連れて行ってあげるから。
――いやぁ…
――嫌じゃないの!きな粉が病院大嫌いなの判ってるよ、でも御前死んじゃうんだよ!そしたら…
パパに怒られる事もなくなっちゃうよ…?
云い、全身が恐怖に痙攣した。
きな粉が死ぬ…?そんな馬鹿な話があって堪るか。
きな粉はもっと、もっと、もっとうんと、俺を困らせ、其の姿を見下す猫なんだ…!
――ネェ……
――良いから、ね?きな粉、パパの事、好きだよね?パパもきな粉の事、大好きだよ。だから、離れたくないんだよ…
猫は、笑ったりするのだろうか。でも確かに、猫はコウジを見て、体温を知って、泣きながら笑った。
――涼子…
――きな粉…、きな粉ぉお!
――大丈夫、きな粉は病院に連れてくから…
涙で状況は見えなかった、涼子が恍惚とした表情でセイジのペニスを咥えて居たとしても。
運転出来ないのは把握していた、だから猫を抱え、タクシーを捕まえた。さぞ気持ち悪かっただろう、四十手前の男が猫を抱え鼻水垂らし行き先を告げるのは。
時刻は、夜の十時だった。其の病院は夜の八時迄で、けれど獣医もスタッフも只ならぬ猫の風貌とコウジの形相に診察してくれた、タクシー運転手の力もある、何があったか判りませんが助けて下さい、と態々、立てないコウジを支え院に迄付き添ってくれた。
――先生、先生きな粉……キナ様!
――お父さん、お父さん……!何が起きたんですか?何が起きて、きな粉ちゃんは、劇物を被ったんですか!?
――劇物…?
――酸が強い薬物です、何が、顔に掛ったんです?
ふっと、理性が戻ったのをコウジは知った。
――妻は…、油絵を描くんです…、きな粉は活発で…、其の剥奪塗料を…
――判りました、強力な酸性ですね?
けれどお父さん、希望は持たないで下さい……夜中の二時迄猫は治療室に居た、憔悴し切るコウジに医者が云ったのは、視力の回復は見込めない…そう、絶望的なものだった。
嘘だろう、きな粉は死ぬ迄一生、俺や涼子の顔を見られないのか…!?
――先生…?嘘でしょう…?!
――月並みで申し訳無い、きな粉ちゃんの視力は…
医者がパフォーマンスで涙を流すのかと、コウジは知れず笑った。
――網膜が完全に焼けて居ます…、見えて居ても、分厚い幕が張ったようにしか…
――きな粉は、きな粉一生、此れから先、私を認識出来ないんですか…?
――お父さん、ご主人、違います。猫は、非常に聴覚臭覚が発達した生き物です、そして、感覚を覚える生き物です。一度叩いただけで警戒し粗相するのも、視覚反応以上に他器官が優れているからで
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