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猫の憂鬱
第4章
―4―
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――あの…
――涼子よ、覚えてる?
――涼子、さん…ですか…?人違いじゃないでしょうか。

すっとぼけた、コウジはドイツに居るセイジがしている事になっている、此処でボロを出せば、あの兄に何をされるか判らない。干上がる喉に唾を送り込んだ。

――私、雪村凛太朗、ですが…
――え?

免許証と名刺を見せたのが良かったのか、涼子は本気で人違いだと思った。大きな目を開き、やだどうしよう、と丸めた手で口元を隠した。

――御免なさい…、知り合いにそっくりだったもので…
――いえ、大丈夫ですよ。
――本当、御免なさい。

必死に演技をした、不自然だっただろうが、元から他人とコミュニケーション取らない涼子には、此の不自然さは見抜かれなかった。
本当云うと、涼子に惚れていた、肉体関係を結んだから情が移ったのもあるだろうが、コウジは軟派な兄とは違い、硬派だった。見た目はほぼほぼ一緒だが、性格は真逆だった。
御前、江戸切子っぽいよね、と云ったのはセイジだった。見た目ごつい癖に繊細だと云いたいのだ。
最後に会った時より涼子は一回り細くなっていた、無理も無いが、元から細いのに…と同情した。
暫く無言で見詰め合った、其れを終わらせたのはジャケットの内ポケットに入る携帯電話電話だった。

――雪村です。ええ、お世話になっております。

少し寂しそうに微笑んだ涼子は小さく会釈し去ろうとした、何故なのか、其の白く細い手首を掴んだ。
此の時掴まなければ、涼子は死ななかった、断言して良い。
セイジには、日本で無名に近い涼子を見付けられる筈が無い、と云えば良かったのに。
身体はあっさり重ねる事が出来た、一ヶ月もなかった。二回目のデートであっさり身体を許した、恋人でも無い男と寝るのは変わってないんだなと、真っ白な身体を見て思った。

――私ね、画家だったの。
――そうなの?
――うん。

――私、黄色って大好き。
――金運的な何か?
――違う違う、昔飼ってた猫がフォーンって云って、黄色っぽい毛並み持ってたの。

個人的な話を涼子がしたのは此れだけだった。筆は折ったが、凄まじい猫好きなのは健在していた。
デートの時、偶々ペットショップの前を通り、居たのだ、其処に、ソマリが。涼子が喰いつかない筈が無く、ショーケースに張り付く涼子は、バッグを買うように猫を飼った。カードであっさり買い、満足そうに猫を抱き上げた。

――きな粉、きな粉ちゃん。

何其の変な名前、と思ったが、思い出せば此れと全く同じ種の猫を“きな粉”と呼び、盲愛していた。
個人的に猫は嫌いだった、毛が付くし、気紛れに纏わり付いて煩い、気分一つで噛み付くのも気に食わない。
なのにきな粉はコウジに懐いた。追い払っても追い払っても喉を鳴らし、正直鬱陶しかっ
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